第44章 剣と秘薬
「ちょ…、待って、ロー。ここをどこだと思っているの。」
すっかりその気になってしまったローを前に、モモは大いに焦った。
貸切とはいえ、ここは公共の場である。
「安心しろよ。貸切風呂なんざ、みんなヤルことヤルに決まってんだろ。」
「そんなわけないでしょ!」
しかもここは露天風呂。
いわば屋外だ。
「外でこんなこと…。どうかしてる…ッ」
「そうか? 普通だろ。」
言いながら、ローの手は大胆にモモの身体をまさぐっていく。
「ん…ッ、本当に…ちょっと待って…!」
彼の普通がどんなものかは知らないが、このまま流されてしまえば大変なことになる。
すぐ隣は大浴場で、誰がいるかもわからない。
もしかしたら、仲間たちが再び温泉に入る可能性だってある。
「そんなに気になるなら、お前が声を我慢すりゃァいい。」
「あ、あなたがこんなことをしなければいいだけでしょう!」
ついでに言えば、心の準備ができていない。
先日、自分の酒癖のせいで一線を越えてしまったわけではあるが、正直、モモはあまりそのことを覚えていなかった。
だから、モモにとってこの“行為”は久しぶりと言っても過言ではない。
ローとの関係を認めてしまった以上、こういうことがあるとは覚悟していた。
でも、いくらなんでもこの状況はハードルが高すぎやしないか。
「せめて…、違う場所にして…ッ」
今さら拒否しようとは思わない。
だけど、このくらいのお願いはしてもいいだろう。
しかし、ローの返答はモモの予想に大きく反した。
「お前は本当にバカだな…。」
「え…?」
本当にバカな女。
こんな状況で、頬を赤らめて、潤んだ瞳で。
そんなことを言われたって、煽っているとしか思えない。
「聞いているの、ロー…!」
聞いている。
でも、そのお願いとやらを聞いてやるかは別の話。
「もう、黙れ。」
それを先ほどの答えとして、彼女がローを非難する言葉を紡ぐ前に、声ごと唇を吸い取った。