第9章 裏切り
モモは彼女の存在を思い出し、視線を部屋中に巡らせて姿を探した。
すると部屋の隅に、名にも言わず俯くメルディアがいた。
「…メル。」
名を呼んでも彼女はこちらを見ない。
「無駄だ、その女は俺たちの仲間だからな。」
メルが、アイフリードの仲間…?
「メル、嘘でしょう? ねえ、メル!」
必死の呼びかけに、メルディアはようやく顔を上げた。
しかし、彼女の口からは残酷な真実が告げられる。
「…本当よ。」
「メル…、どうして…?」
どうして、こんな男の仲間に。
「愛しているの。」
「……え?」
「彼を、愛してる。だから、彼のためならなんでもするわ。」
彼の欲しい財宝を盗む。
情報のために、他の男と寝る。
自分を友達と慕う少女を攫う。
大事な母の絵画さえも差し出す。
恋が、メルディアを狂わせた。
「どうして…。お母さんの絵は、メルとお母さんの夢じゃなかったの?」
あの言葉は、嘘?
「そうね、私は絵画のために生きていたと言っても過言じゃないわ。…でも、夢よりも大事な人を見つけたの。」
「それが、アイフリードだというの…ッ?」
こんな財宝にしか興味のない男を、それほどまでに愛しているのか。
「勘違いするなよ、セイレーン。俺はメルディアを愛しちゃいない。」
2人のやり取りを興味なさそうに眺めていたアイフリードが口を挟んだ。
「俺が愛しているのは、財宝だけだ。」
その言葉に、メルディアの瞳は悲しみの光を宿す。
「メル、こんな人の言うことをどうして聞くの…!」
目を覚まして、と叫ぶモモに、アイフリードは声を上げて笑った。
「どうして、か。言ってやれよ、メルディア。ほら、…言え。」
命令ともとれる口調で、彼はメルディアに口を開かせる。
「抱いてもらえるからよ。…体だけでも、愛して欲しいの。」
「…そんな、そんなの--!」
愛じゃない。
「はははは! お前は本当に可愛い女だ、メルディア。」
優秀で、なんて愚かな女だろう。
そんな様子のアイフリードを、モモは金緑色の瞳を怒りに燃やして睨み上げる。