第44章 剣と秘薬
今回は、鉱石を手に入れることは無理かもしれない。
コハクは自分が得たいと思ったものに対して、知識が足りなすぎたのだ。
「もっと勉強しなきゃなぁ…。」
医者になるため独学で、ローと出会ってからは彼に教えてもらって、ずいぶんと勉強してきたつもりだ。
でも、それだけじゃダメだ。
コハクがなりたいのは、ただの町医者なんかではなく、海賊兼医者。
それには医療のことだけではなく、幅広い知識が必要だと感じた。
関係なく思われる知識も、いつかなにかの役に立つだろう。
とはいえ、諦めたわけじゃない。
まだ約束の時間には早い。
ギリギリまで粘って探し続けようと思う。
「ヒスイ、休憩は終わりだ。鉱山に戻ろう。」
「きゅい!」
コハクの呼びかけにヒスイは元気よく返事をし、ぴょんとこちらに跳ねてくる。
が、しかし…。
「きゅきゅ!?」
バシャン!
着地した足場は思ったよりも苔で滑っており、バランスを崩したヒスイはそのまま川底に落下する。
「ヒスイ!」
流されてしまっては大変だ。
コハクは急いでヒスイのもとへ駆け寄る。
「きゅう!」
しかしヒスイは、自らの触角を伸ばして近場の流木に巻きつけ、自力で這い上がってきた。
「ああ、ったく、心配させんなよ…。」
おかげで身体だけでなく、肝まで冷えた。
「きゅいー。」
ヒスイは申し訳なく鳴いて、身体をプルプルと振る。
2人が暴れまわったせいで、川の水が一部濁ってしまった。
この川底は砂利よりも砂の成分を多く含んでいるようだ。
「この川の土、ずいぶんと黒いんだな。」
何気なく掬い取ってみると、今までコハクが見たことないくらい黒い土だ。
「ヒスイ、これって栄養あんのかな?」
色濃い土は、ミネラルや養分を豊富に含んでいるものが多い。
植物の性を持っているヒスイに尋ねてみるが、ヒスイはきょとりと首を傾げた。
「珍しいし、母さんのお土産にするか。」
せっかくここまできたのだ。
鉱石は見つからなくても、手ぶらよりはずっといい。
コハクは持参した麻袋に、少し光沢のある黒土をヒスイと一緒に詰め始めた。