第44章 剣と秘薬
一方、鉱石を求めて出かけていたコハクとサクヤは、夕暮れ前に山へとたどり着いていた。
「む…、なるほど。これは良い鉄鉱石が採れそうだのぅ。」
剥き出しになった山肌を見つめ、サクヤはしげしげと頷く。
「鉄鉱石って、どういう石のことを言うんだ?」
「そうだの…。ほれ、こういう鉄を多く含んだもののことだ。」
そう言ってサクヤは近くに転がっていた小豆大の石を手に取った。
普通の石よりは黒っぽい。
けれど、それ以上の判別はコハクにはつかなかった。
「してコハク。おぬし、何ゆえについてきた?」
「え?」
「鍛冶や鉱石に興味があるのは嘘ではないだろうが、それだけでついてきたわけではあるまい。」
驚いた。
サクヤがそこまで見抜いていたとは。
「なにか目的があるのだろう?」
次々と言い当てられて、コハクは黙り込む。
サクヤは不思議な女だと思う。
モモとそう年齢は変わらないはずなのに、妙に落ち着いていて、なんというか、ものすごい年上の人と話しているみたいに感じる。
だからだろうか、コハクも素直に答えられた。
「オレ、自分の剣が欲しいんだ。」
「剣?」
木刀やナイフなんかじゃなくて、ちゃんとした剣。
コハクの年齢を考えると、誰もが「まだ早い」と言うかもしれない。
でもコハクは、あの船で自分だけ“幼い”ままでいたくはなかった。
「オレも…、みんなを守りたいんだよ。」
そのためには、自分の、自分だけの剣が必要だと思った。
「あんた、鍛冶士なんだろ? オレに剣を作ってくれないか。」
真剣なコハクを前に、サクヤは笑ったりしなかった。
幼くとも、彼は立派な男だった。
さて、どうしたものか。
「なぜ私に頼む。鍛冶屋なら街にもたくさんあるだろうに。」
鉱山があるだけに、街の武具はサクヤから見ても質の良いものが多かった。
こう言ってはなんだが、サクヤは自分の才能を安売りするつもりはないのだ。
自分の認めた相手でないと、依頼は受けない。
今も昔も、その信念だけは変えられなかった。