第44章 剣と秘薬
目的もなくブラリと外へ出ていたローは、夜の街明かりの中、手のひらに収まっている指輪を眺めた。
白金の台座に、持ち主の瞳の色を移したような金緑のエメラルド。
それはずっと、モモの左薬指で輝いていたものだ。
いくら装飾品に疎いローでも、その意味くらいはわかる。
これはかつて、モモが愛した人が彼女に贈ったものだろう。
なんとなく指輪の裏側を見てみると、彫刻された“愛している”の文字。
「火拳屋も、キザなことしやがる…。」
正直、いい気持ちはしない。
嫉妬で胸が焼けそうだ。
けれど、モモにとってこの指輪はとても大切なもので、自分はそんな彼女を愛すと決めた。
たぶん、ローがモモの薬指に他の指輪を飾ることは叶わないだろう。
だからその分、彼女の中にまだ見ぬ色をつけていきたい。
『トラ男くん、ちゃんといろんなところに連れて行ってあげなきゃ。』
先ほどロビンに言われた言葉が甦る。
言われなくても、これからどこへでも連れて行く。
天空に浮かぶ島でも、お菓子で作られた島でも、グランドラインの最果ての島でも。
この指輪の贈り主ができなかったことは、すべて自分が引き継ぐ。
「文句は言わせねェ。」
まるで過去の男に聞かせるように、指輪に向かって呟くと、大粒のエメラルドがキラリと光った気がした。
「……?」
不思議に思って指輪をクルリと回すが、特に変わった様子はない。
見間違いだろうか。
白金に彫られた花の絵柄が、街灯に照らされて美しく浮かび上がる。
「カモミール…か。」
何気なく口に出た言葉だったが、すぐに妙な感覚に襲われた。
なぜ自分は、この花をカモミールだと思ったのだろう。
カモミールの花など、見たこともないのに。
『ロー、カモミールっていう花はね、とっても強い花なのよ。』
昔、そんなことをローに教えてくれたのは、誰だっただろう。
“逆境に負けない力”
“大きな希望”
どうして自分は、カモミールの花言葉を知っているのか。
しばらく指輪を見つめて考えてみたけど、結局理由はわからなかった。