第44章 剣と秘薬
「男どもは放っといて、私たちは行きましょうか。」
「そうね。」
こういう絡みに慣れたナミとロビンは、我関せずと温泉へ向かう。
すると、今まで黙っていたサクヤが2人に声をかけた。
「すまぬ。温泉は惜しいが、私も遠慮しておこう。」
「あら、どうして?」
さすがにローと同じ理由ではないだろう。
ナミは不思議そうに尋ねた。
「うむ。先ほど宿の主から、この島の山では良質な鉱石が採れると聞いてな。少し探しにいきたいのだ。」
サクヤは鍛冶士。
材料となる鉱石があると聞けば、いてもたってもいられない。
その気持ちは薬剤師であるモモにもよくわかる。
「そう、残念ね。」
「なに、戻ってきたらゆっくり入らせてもらうよ。」
運動のあとの温泉は格別だ…と、年寄りのようにしみじみと言う。
「お前、鍛冶士なのか?」
傍で話を聞いていたコハクが、驚いてサクヤを見上げる。
「いかにも、鍛冶士だが?」
「これから刀の材料を探しに行くのか?」
「うむ。刀に適した鉱石が見つかるとは限らんがな。」
サクヤに興味を持つコハクを、モモは意外な気持ちで見やった。
「どうしたの、コハク。」
「オレも一緒に行きたい。」
「え…ッ」
これまた意外な反応だった。
好奇心が強い子供ではあるが、こんなふうにモモやローと別行動をすると言い出すのは珍しかったから。
「ダメよ、迷惑になるでしょう。」
薬草探しとは違って、コハクに鉱石の知識などない。
そんな子供がついていってもサクヤの迷惑となるだけ。
「私は別に構わんよ。」
しかし、サクヤはあっさりと頷いた。
「え、でも…。」
「賢そうな子だ。足手まといになどなるまい。」
言われてコハクも「邪魔はしない」と約束する。
「じゃあ、わたしも…。」
「おぬしが来ては、それこそ足手まといであろう。」
「……。」
否定はできない。
モモの運動能力はコハクよりも劣る。
「心配せずに、おぬしは先に温泉を楽しんでおれ。」
「母さん、少しだけだから。」
多少の心配はあったが、2人にそう言われたのと、最終的にローに「行かせてやれ」と言われたのもあり、モモは躊躇いながらも見送った。