第44章 剣と秘薬
一行が向かった温泉宿は、大きくはないにしろ、趣があり老舗旅館のようなたたずまいだった。
「すごい、素敵ね。」
ワノ国を模した雰囲気の旅館は、モモにとってとても物珍しかった。
「あら、モモはこういう場所は初めて?」
「ええ。いつも宿泊は船か酒場宿だったから。」
「それはいけないわね。トラ男くん、ちゃんといろんなところに連れていってあげなきゃ…。」
どこか意味ありげにロビンに言われたローは、余計なお世話かと思ったのか、それとも言われたとおりだと思ったのか、無言のまま応えなかった。
「それじゃ、早速温泉に入りましょうよ!」
汗のベタつきが許せないのか、ナミは受付を手早く済ませて、すでに着替えも用意してもらっていた。
「よし、俺らも入るか。」
男性陣も異議はないらしく、各々が頷くが、チョッパーとベポは首を横に振る。
「おれはいいや。ただでさえ暑いのに、温泉なんか入れない。」
「おれもー。外で水浴びするから、それでいい。」
雪国動物コンビはそう言うと、のそのそと外へ出ていく。
「アイツらは…まあ仕方ねぇな。じゃあ残りの連中で行くか。」
ウソップの声にみんな着替えを借りにいくが、ローは動かない。
「俺も行かねェ。」
「なんだよ、トラ男~。お前も風呂嫌いなのか?」
「行こうぜ~」と肩に腕を巻きつけようとするルフィを、ローは煩わしそうに振り払う。
「違う。お前らと一緒に風呂なんざ、死んでも嫌なだけだ。」
確かに、ローが仲良くみんなと裸の付き合いができるとは想像できない。
「なんだよ、照れんなよー。」
「誰が照れるか、フザけんな。」
割と本気で嫌がられているのにルフィはまったくめげない。
そんな彼だからこそ、ローと付き合っていけるのだろう。
けれど、ローがその場の空気に流されることはなかった。