第44章 剣と秘薬
「はあぁ…、美味しい…!」
念願のソフトクリームを買ってもらったモモは、瞳を輝かせながらため息のような感想を漏らす。
「ロー、ありがとう! コハク、美味しいね。」
「……甘い。」
「うんうん、甘くて美味しいよね。」
(…聞いちゃいねーな。)
ソフトクリームに夢中なモモに半眼になりながら、コハクは横を歩いていたチョッパーに食べかけをそっと渡す。
「やる。」
「え、いいのか!」
嬉々としてかじりつくチョッパーを横目に、コハクは立ち並ぶ店を眺めた。
屋台の他に、シートに商品を広げた店なんかもある。
「あ…。」
雑貨や骨董品など、様々なものを取り扱う店のうち、コハクが興味を持ったのは、刀やナイフを扱う武器屋だった。
「お、なんだボウズ。興味あんのか。」
店主は小さな来客にも嫌な顔をせず、にこやかに対応する。
「まぁね。」
コハクの武器は木刀だ。
というのも、生まれ育ったシルフガーデンでは、それしか手に入らなかったから。
ヒスイの助けもあり、島ではそれで問題なかったが、これから先はそうもいかない。
シャボンティ諸島でも魚人島でも、自分はなんの戦闘力にもならなかったのだ。
子供だから…と言ってしまえばそれまでだが、それを言い訳にしたくはない。
コハクにも、守りたいものがある。
ここ最近になって、それが増えた。
当の本人は自分の助けなどまったく必要としていないだろうが、それとこれとは別問題だ。
「ほら、コレなんかどうだい。」
子供でも扱えそうな小振りのナイフを勧められたが、コハクは首を横に振る。
そんなオモチャが欲しいわけじゃない。
「どうした。」
コハクの様子に気づいたローが近寄ってくる。
「お、ボウズの父ちゃんかい? なんか、武器に興味があるんだってよ。買ってやんなよ。」
「そうなのか?」
尋ねられて、コハクは悩んだ。
ここで欲しいと言えば、ローは買ってくれるだろう。
でも…。
「ん…、いや。別にいいや。」
そう言って店を離れる。
(なんか、違うんだよなぁ。)
コハクが欲しいのは、こんな量産されたものじゃなくて。
例えばそう。
命を預けられるような。
ローの持つ、鬼哭みたいなものが欲しい。