第44章 剣と秘薬
ベポがプールというエサに釣られて行ってしまうと、この場にはローとモモの2人だけが取り残された。
(あ…、どうしよう。2人っきりだわ。)
なんとも言えない気まずさが立ち込める。
昨日の朝、あんなことがあってからモモはどうしていいかわからず、いつも通りに振る舞えない。
2人の部屋を繋ぐドアが、いつ開かれるのかと気が気でなかった。
しかし、モモの緊張とは裏腹に、部屋のドアは開かれることはなかったのだ。
いや、別にガッカリなどしていない。
断じて。
ただ、なんと言うか、肩透かしを食らったような気がしただけだ。
(だって…、ローがあんなこと言うんだもの。)
“俺の女”
それをうっかり了承してしまったから、だから変に意識してしまうだけ。
そう、それだけなのだ。
そんな誰にするでもない言い訳は、モモの気まずさをいっそう強くさせた。
「暑っちぃな…。」
「そ、そうね。」
他愛もない話ですら続かない。
ああ、普段ローとどんな話をしていたのだっけ?
恋を知らない子供でもないくせに、こんなに戸惑う自分が恥ずかしい。
いっそ、ベポについていけばよかった。
「…わたしもプールに入ろうかしら。」
つい逃げに走って呟けば、先ほどまでベポが陣取っていたモモの隣にやってきたローが眉を寄せる。
「は…? お前、水着になるつもりか?」
「え……。」
そうか、プールに入るということは、当然そういうことになる。
あんな下着のような姿で人前に出られるほど、モモに勇気はない。
「ム、ムリだわ。そもそもわたし、水着を持っていないし。」
着衣のまま入るという手もあるが、別にそこまでして入りたいわけでもないし。
「そういう問題じゃねェよ。」
真剣に考え始めたモモに、ローは呆れたように息を吐いた。
ではどういう問題かと見上げれば、そんなこともわからないのか…と言いたげな目で見返される。
「俺以外の連中の前で、簡単に肌を晒すな。」
「……!」
独占欲剥き出しな発言に、モモは暑さのせいではない理由で顔を赤くさせた。