第44章 剣と秘薬
みるみるうちに顔色が青くなっていくモモを見て、ローは内心ホッとした。
どうやら、昨夜のことをまるで覚えていないというわけではないようだ。
それならば…。
付け入れる。
冷や汗をダラダラと垂らすモモにわからないよう、ローはひっそりと笑った。
「…その様子じゃ、覚えてんだな。」
ショックで意識を失いかけた頭に、ローの声がよく響く。
モモはビクリと肩を震わせ、罪人のように恐る恐るローを見上げた。
「覚えてんだな。」
なかなか返事をしないモモに、ローはもう一度問いかける。
「う……。」
覚えていないと言ってしまいたい。
そう言えば、昨夜のことはなかったことになるのではないか。
そんな卑怯な考えが頭をよぎったが、いかんせんモモは正直者。
そんな高度な嘘はつけない。
「覚えて…ます…。」
結局、モモには白状することしかできず、ガックリとうなだれた。
なんてことをしてしまったのだろう。
散々ローの気持ちを跳ねつけておきながら、それとは真逆の行為に誘ってしまったのだ。
どうしてそんなことをしてしまったのか理解できず、モモは頭を悩ませる。
そういえば、いつ宴を抜け出したのかも覚えていない。
ローとエースの話をしたことは覚えているものの、それ以前の記憶が曖昧だ。
ウンウンと頭を抱えるモモを、ローは悪い笑みを浮かべ見下ろした。
「覚えてんなら話は早ェ。ちゃんと責任とってくれんだろうな。」
「せ、責任…?」
思いもよらない言葉にモモは目を瞬かせた。
「そりゃァ、そうだろう。こうなった以上、ケジメをつけてもらわないと困る。」
「ケ、ケジメ…。」
そうかな?
そういうものなんだろうか…。
「男が女を傷つけたらケジメをつけるのに、その逆がないのは理にかなわねェだろ。」
「それも、そう…よね。」
なにかがおかしいとは思いつつも、確かにそのとおりだと納得してしまった。
「ケジメって、どうしたらいいの…?」
不安げに尋ねてみると、ローがしたり顔になったのは気のせいだろうか。