第44章 剣と秘薬
意味がさっぱりわからなかった。
なんでローが自分の部屋にいるのか。
そして、なんで自分は素っ裸なのか。
残念ながら、モモに寝ながら衣服を脱ぐような悪癖はない。
だとすれば、目覚めた時に裸の理由はただひとつ。
「な、なんでわたし、服を着てないの…?」
理由を知っているであろうローに尋ねる。
「なにもなかった」と言ってくれることを願って。
しかし、その問いはローの機嫌をたいそう害したらしい。
顔を歪めた彼は、やや冷たく言い放った。
「昨日、ヤったからだろう。」
「ヤっ……。」
あまりに俗物的な言い方に、ショックを受けるどころか打ちのめされた。
とはいえ、少しも予想してなかったわけじゃない。
モモの身体には、あちらこちら口づけの痕が残っていたし、心なしか雄の匂いがした。
それで状況がまったくわからないほど、モモは子供ではないのだ。
でも、ローは服を着ているし、一縷の望みに賭けてみたかったのだ。
(いったい、どうしてこんなことに…。)
彼と再会して、交わりが1度もなかったわけじゃない。
情欲の目を向けられたこともたびたびあった。
しかし、モモが本気の拒絶をしてから、そんなふうに扱われることはなかったのだ。
「…言っておくが、俺が無理やりしたわけじゃねェからな。」
モモの考えていることがわかったのか、ローが口を開いた。
「え……。」
軽い頭痛に堪えながら、モモはその意味を飲み込めずに首を傾げる。
「誘ってきたのは、お前の方だ。」
「な…ッ、そんなの--…」
あり得ない! と叫ぼうとして、黙り込む。
目覚めた頭が、落ち着いてきた頭が、昨夜の記憶を徐々に取り戻してくる。
そんな、そんな。
わたしがローを誘うだなんて。
そんなこと、あるわけ……。
……。
そういえば、昨夜自分は、なぜだか足元がおぼつかなくて、ローに抱きかかえられて部屋に戻ったのではなかったか。
そして、去ろうとするローを抱き縋って引き止めやしなかったか。
あまつさえ、戸惑う彼に、キスをしたりなんか…。
そんなこと、あるわけあった。
繋がっていく記憶の糸に、モモは血の気が引いていくのを感じていた。
これが世に言う、「やっちまった」ということか。