第44章 剣と秘薬
「そうだな…。」
ローは顎に手を当て、思案するような顔になる。
モモは軽い頭痛にこめかみを押さえながら、その様子を眺めていた。
乱れたシーツに脱ぎ散らかされた服。
自分の部屋だというのに、まるで別の部屋にいるようだ。
ああ、頭痛が強くなってきた。
どうして、こんなことに…。
モモが今日何度目かの疑問を浮かべた頃、ローが口を開いた。
「お前が誘ったんだ。責任とって、それなりのケジメは覚悟してもらわねェとな…。」
「う、うん。」
経緯はどうあれ、モモがしでかしたのは事実。
なにかしら償いをしなくては…と身構えた。
「お前、俺の女になれ。」
「……は?」
頭痛も忘れて、あんぐりと口を開けた。
なんだって?
俺の、女…?
どこかで聞いたことのあるセリフに、モモは一瞬、過去に戻った気分になった。
「な、なに言ってるの?」
今はあの時と違って、思ったことを言葉にすることができる。
しかし、言葉にできたからといって、なにかが変わるかといえば、そうでもない。
だって相手はローなのだから。
「当然だろ。既成事実ってのはそういうもんだ。」
「き、既成事実…。」
確かにそうなんだけど。
でも、嫌がるローを無理やり襲ったわけでもないし。
…たぶん。
「責任とって結婚するヤツらもいるんだ。これくらい、どうってことねェだろ。」
「け、結婚…。」
そういうこともあるのかと愕然とする。
ちなみに、結婚に至るのはそれがキッカケで子供ができた人に限る話だということは、世間に疎いモモは知らない。
「で、でも…。わたし、ローをそういうふうに見れないわ。」
嘘。
けれど、決めたのだ。
ローの気持ちは受け入れられないと。
ズキリと胸が痛む。
勝手だ。
きっと自分の言葉は、それ以上にローを傷つけることだろう。
しかし、罪悪感からチラリとローの様子を窺うと、モモの予想と反して不敵な笑みを浮かべていた。
「……?」
なぜだろう、今日のローは昨日までの彼と別人のようだ。