第44章 剣と秘薬
なんで。
なんで、なんで…。
ずっと同じ疑問が頭をぐるぐる回っているが、声にすることができず、口をパクパクさせてしまう。
そんなモモをどう思ったのか、先に声を発したのはローの方だった。
「……いてェ。」
それが先ほど突き飛ばしたことへの不満だと理解できた頃、ようやくモモの呪縛が解けた。
「な、なんであなた…ここにいるの。」
間違いなく、ここはモモの部屋だ。
すぐ隣はローの部屋で、それを隔てる壁には続きとなるドアがひとつ設置されているが、それが開かれたことは未だかつてない。
それなのに、なぜ彼が今ここに。
やっとの思いで絞り出した質問だったが、ローはそれに答えず、モモが跳ね飛ばした掛布を投げてよこす。
「とりあえず、服を着ろ。…朝っぱらから目に毒だ。」
「は……?」
とっさに掛布を受け取ったものの、ローの言っている意味がわからず、目を瞬かせる。
服を着ろって…、なに言って…。
まるでモモがなにも着ていないかのような発言に首を傾げ、チラリと己の装いを確認した。
なにも、着ていなかった。
「ひ……ぃ……ッ!!」
本日2度目の衝撃は、前回を遥かに凌駕した。
あまりのことに弾かれるように飛び跳ねたモモは、ここがベッドの上ということも完全に忘れた。
距離感もわからず跳ねたものだから、ベッドから転げ落ちる体勢となる。
頭から転げ落ちてもおかしくはない状況であったが、モモの反応を予測していたのだろう、ローの腕が素早く伸びて、彼女の身体を支える。
しかし転落こそ免れたが、モモにお礼を言う余裕などない。
パニック状態になってもがく。
「オイ、暴れんな…。いてッ、引っ掻くなっての。」
まるで無理やり風呂に入れた時の猫のようだ。
ローはため息ひとつ零すと、ケガをしないように注意しながら彼女の身体を床へと転がした。
自由を得たモモは、急いで掛布を引き寄せ、蓑虫のようにくるまった。
こちらを見つめる金緑色の瞳は、驚愕に染まっていた。
(まさか、覚えてねェってことはないよな。)