第44章 剣と秘薬
窓から差し込む柔らかな日差しを受け、モモは意識を浮上させた。
なんだか、ひどく喉が渇く。
心なしか頭も痛い。
風邪でもひいただろうか…と思いながら、目を覚まそうと身じろいだ。
「ん……。」
ところが、いつもなら簡単に寝返りを打てるはずの身体が重い。
まるで、拘束されているかのように動けないのだ。
「……?」
不審に思い、普段より重たくなった瞼を無理やりこじ開けた。
まず、視界に入ってきたものは、胸板。
鍛え上げられた筋肉が芸術のように美しく、肉体美というのはまさにこのことなのだろう。
が、しかし。
その美しい胸板に描かれたタトゥーに見覚えがあるのはモモの気のせいだろうか。
次に感じたのは吐息。
明らかに自分のものではない、規則正しい寝息がモモの額をくすぐった。
おかしい。
モモは一人部屋を所有しているはずなのに。
最後に気がついたのは、自分を拘束しているもの。
モモの身体に巻きついていた…いや、抱きしめていたと表現した方が正しいものは、人の、男の腕だった。
僅かに残る消毒液の匂い。
この匂いの主に心当たりがある。
なぜ…? と考えるより、モモの視線が
上へと移動する方が早かった。
「………。」
思考が止まる。
よく頭が真っ白になるって表現があるけど、まさにそれだった。
ポカンと開いた口が塞がらず、今のモモはとんでもなくマヌケな顔をしているに違いない。
なにが。
どうして。
信じられない。
一拍遅れて様々な感情が駆け巡ったが、どれも頭をすっぽ抜けていく。
代わりに出たのは、声にならない叫び声。
「---ッ!!」
渾身の力で突き飛ばした。
「う…ッ」
結果、それで相手を起こしてしまうということにも考えつかないほど動揺していた。
優しさとはほど遠い起こされ方をして、彼は眉根を寄せて目を開ける。
その目つきの悪さも、慢性的な隈も、派手なタトゥーもなにもかも知っている。
自分にもっとも近くて、もっとも遠い人。
トラファルガー・ローがそこにいた。