第43章 覚悟
「…手伝ってやろうか? 母さんのこと。」
果たして自分にどこまでのことができるのかは不明だが、たぶん、いないよりかはマシだろう。
しかし、せっかくの提案もローは鼻で笑ってあしらう。
「必要ねェ。余計なお世話だ。」
必要あると感じるから言っているのに…。
2人の関係は端から見ていてどうにもじれったい。
「それに、自力でアイツの気持ちをこっちに向けさせられなきゃ意味がねェ。」
「……は?」
耳を疑った。
なんだって?
こっちに向けさせられなきゃ?
それじゃまるで、モモの気持ちがローに向いていないみたいじゃないか。
「…なにを、どうするって?」
一応確認してみると、ローは当たり前のように言う。
「アイツの気持ちが俺に向いていないことくらい知っている。」
「…はぁ。」
「だが、俺はもう手加減はしない。お前の許可も出たことだし、一気に攻めさせてもらう。」
「…へぇ。」
なんだかもう、気の抜けた返事しか出ない。
モモもモモだが、ローもローだ。
あんなにわかりやすいのに、気がつかないのか?
2人の鈍感さに滅入った。
きっと揃ってニブニブの実でも食べたに違いない。
よくもまあ、そんなんで大きな口を叩けたものだ。
「……手伝ってやろうか?」
今度は若干、憐れみを込めて言ってやった。
「だから、いらねェって言ってんだろ。俺の話を聞いてたのか。」
もちろん、聞いていたけど。
あえて言ってんだよ、あえて。
「心配しなくとも、てめェでなんとかする。」
「…ああ、そう。」
ならばもはや、なにも言うまい。
「もう戻る。お前もそろそろ寝ておけ。」
話は終わりだとばかりに、ローは船内に引き返した。
その背中を、コハクは黙って見送る。
「なぁ、ヒスイ。」
「きゅ?」
「こういうの、なんて言うんだっけ?」
相棒に語りかけながら、2人の関係を表す言葉を探した。
「ああ、そうそう。“似たもの夫婦”って言うんじゃないか?」
「…きゅきゅ。」
まったく、大の大人がなにしてるんだか。
とりあえず、ローにはわからないように手助けしてやろう…。
じゃないと一生、うまくいかない気がする。
そんなことを覚悟した夜だった。