第43章 覚悟
可愛くないガキだ。
本当に、つくづくそう思う。
お前、今 嬉しいと思ってくれてんだろ。
堪えているつもりかもしれないけど、眉間のシワが、瞳の赤さがすべてを語っている。
生意気で、素直じゃないガキ。
でもそんな彼が、心から愛おしかった。
素直になれないのはこちらも同じ。
知らないだろ。
お前にこの一言を言うのが、どんなに勇気が必要だったか。
知らなくていい。
そんな情けないところは少しだって見せたくはない。
なぜなら、ローは今日この時から、父親となったのだから。
ひねくれた返事をくれた“息子”の頭に、ローはポンと手を置いた。
『ありがとう』と『よろしく』という想いを込めて。
コハクがまだ赤みの引かぬ瞳をこちらへ向けた。
僅かに口元が緩んでいる。
これ以上、言葉を重ねる必要はない。
ローもコハクも、互いの気持ちをちゃんとわかっているから。
不思議だ。
ほんの少し前までは赤の他人だったというのに、どうしてこうも理解できるのだろう。
これまで何人もの人間に指摘された生意気な顔つきも、今では自分に似ていると思わなくもない。
父親になった瞬間からそんなふうに感じるなんて、少々浮かれすぎているのかもしれない。
「…ロー。」
ようやく平静さを取り戻したコハクが声をかける。
「オレはお前のこと…父さんと思ってもいいけどさ。母さんのこと、どうするんだよ。」
勝手に2人で進めてしまったけど、ここにモモの意志はない。
ローだって、コハクに認められたからこれですべてまとまるとは思っていないだろう。
「どうするもなにも…問題ねェ。」
「イヤ、あるだろ。」
息子の自分から見ても、モモはとんでもない頑固者だ。
いくら彼女がローを好きでも、その想いを表に出すことはないと思う。
ローもそれをわかっているはずだが。
しかし、コハクの不安をよそに、ローが出した結論はいたって安直なものだった。
「アイツは俺のものだ。誰がなんと言おうともな。」
「……。」
どこから出てくるんだよ、その自信。
ああ、そうだ。
ローはこういうヤツだった。