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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第43章 覚悟




船内の廊下を、部屋に向かって進んだ。

ほんの数十分前に通ったばかりだというのに、その頃とはなにもかもが違う。

“家族”ができた。
自分をそう思ってくれる人に出会えた幸運を噛みしめる。

一度は失ってしまったもの。

もう二度と、失ってたまるか。

けれどまだ、手に入れていないものもある。

焦ることはない。
必ず手に入れるさ。

こちらを向かないのなら、無理やり向かせて。

意識してくれないのなら、強引に。

そして、嫌ってほど大切にしてやる。

2つのドアの前で立ち止まったローは、当然のように片方を開けて中へ入った。


ガチャリ。

カモミールの香りが広がる。

隣の薬品臭い部屋とは雲泥の差である空間には、ベッドで部屋の主が眠っている。

酒のせいか、それとも先ほどの行為のせいか、彼女は目を覚ます様子もなく深い眠りについていた。

ベッドの広さは十分にあるはずなのに、小さく丸くなって端で縮まる姿が愛おしい。

まるで自分のために空けられたかのようなスペースに、ローは迷わず入り込んだ。

トンと当たった手に気がついたのか、モモは身じろぎ、猫のように擦り寄った。

いちいち仕草が可愛すぎるんだよ…と内心毒づきながら、顔にかかった髪を掻き上げてやる。

すると今度は肩にかかっていた上掛けがずり落ちて、白い肌が露わになった。

「……。」

一瞬で視線が釘付けとなり、悩ましい感情が身体を駆け巡る。

勝手に反応してしまう男の性をグッと堪え、大きく息を吐いた。

無理やり、強引にでも…そう決めたのは事実だが、それはそういう意味ではない。
彼女の気持ちを無視するような、以前と同じ過ちを犯すつもはない。

先ほどのように、少しでも彼女に隙があれば話は別だが。

とにかく今は違うと言い聞かせ、自分もベッドの中に潜り込んだ。

モモはというと、ローに身体を寄せて気持ち良さそうにスピスピと眠っている。

その安らかな顔が憎らしい。

「クソ…、拷問か…。」

けれどベッドから離れるつもりにはとうていならず、腹を括って彼女を抱き寄せた。

たぶん、簡単には眠れない。

「お前、明日から覚悟しとけよ…。」

なりふり構ってなんて、やらないから。

だけどまあ、今だけはなにも知らず眠っとけ。

愛しい人の額に口づけを落として、ローも瞼を閉じた。



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