第43章 覚悟
言葉がでなかった。
だって今、なんて言った?
ローは今…。
嘘だろ、そんなの。
あるわけない。
ローがモモを愛していることは知っている。
そしてモモも、ローのことを想っている。
だから、想いが通じればいいと思った。
そうして、2人が幸せになればいいと思った。
2人が幸せならば、きっと自分も幸せだから。
それだけで、十分だから。
十分、なのに…。
『お前の父親に、なってもいいか。』
ローが、オレの父さんに…?
そんなの無理だ。
だって、オレにとってのローは、師匠で船長で。
それから…。
それから…。
いつからだろう。
ローの手が、誰より大きいと感じた。
ローの背中に、誰より追いつきたいと感じた。
ローに認められたいと思った。
その理由が、ずっとわからなかった。
ベポの優しいところが大好きだ。
でも違う。
シャチの兄貴っぽさを尊敬している。
でも違う。
ペンギンの要領のよさを見習いたいと思う。
でも違う。
ジャンバールの腕っぷしに憧れている。
でも違う。
他の誰とも異なる、この感情は。
瞬間、理解した。
ローの手が大きい理由。
ローの背中に追いつきたい理由。
ローに認められたい理由。
ローを家族と思う理由。
それは…。
いつからだろう。
ローを父親のように思っていたのは。
ずっと気がつかなかった。
それくらい自然で、当たり前の感情だったから。
それでも今までわからなかったのは、拒絶されるのが怖かったからなのかもしれない。
でも、見つけてしまった。
見つけられてしまった。
コハクにとってローは、とっくに父親だったのだ。
胸が、熱い。
空いていた心の溝に、お湯が注がれるようだ。
「いいよ、別に…。」
こんな応え方しかできない自分を、どうか許して欲しい。
だってしょうがないだろ?
嬉しいなんて言ったら、恥ずかしいじゃないか。
嬉しいなんて言ったら、泣いてしまいそうじゃないか。
そうしたらきっとお前は、言うんだろ。
「男が泣くな」って、父親の顔をしてさ。
そんな顔を少し見てみたいけど、弱いヤツって思われたくないから、オレは泣かないよ。
「きゅうぅ…。」
なんだよ、ヒスイ。
お前が泣くなよ。
泣きたいのは、オレの方なんだからさ。