第43章 覚悟
考えてみれば当たり前の話だった。
コハクは聡い子だから、ローの気持ちなどとっくに知っていただろう。
けれど、それでもローの邪魔をしなかったのは、ローをモモの相手として認めてくれていたからだ。
『母さんさえ幸せなら、それでいいよ。』
ほんと、ムカつくガキだ。
なにからなにまで。
「勘違いすんな。」
「……?」
年の割には大人びて、でもやっぱり幼い瞳がこちらを見上げる。
「俺は、そんなことを言わすためにアイツが好きだと言ったんじゃねェ。」
モモだけ幸せなら?
そういうガキのくせにガキらしくないところがムカついてしょうがない。
「んじゃ、なんだって今さらそんなこと言うんだよ。」
コハクのもっともな言葉に、しばし黙る。
悪かったな、今さらで。
だけどこれは、ローにとって そう簡単に出せる決断ではなかったのだ。
でもその決断の遅さが、コハクにそんなことを言わせてしまった原因だと思う。
悪かったな、今さらで…。
「…コハク。」
「なんだよ。」
生意気で、可愛げのないガキ。
その印象は今も変わっていない。
だけど今は、それに加えて違う感情が芽生えている。
なりたいものがある。
それは、コハクにとって足りないもの。
モモの傍にいるのが自分でなくては我慢ならないように、コハクにとってのソレは、自分でなくては我慢できない。
ベポでも、シャチでもペンギンでもジャンバールでもなく。
そして、エースでもなく。
この、俺が。
「お前の父親に、なってもいいか。」
モモだけじゃない。
コハクも幸せにしたい。
モモを愛している。
そしてコハクも愛したい。
ならば、なりたいものはただひとつ。
コハクの、父親になりたい。
愛すると決めた。
幸せにすると決めた。
それが、ローの覚悟。