第43章 覚悟
「…正直、目の前に父さんの敵が現れたら、恨まずにいられないとは思う。」
先ほどの答えとは裏腹に、ポツリと語るコハクを見て、ローはやはりな…と思った。
当たり前のことだ。
ローだって、恩人コラソンの敵であるドフラミンゴをずっと許せなかった。
何年かかっても、必ず一矢報いてやると誓った。
コハクがローを恨むのは、仕方のないこと。
そうはわかっていても、気持ちがゆっくりと沈んでいくのは止められなかった。
「でも……。」
「相手がローなら、話は別だ。」
しっかりとローの目を見据えてコハクは言った。
「…どういう意味だ。」
自分が相手なら話は別…その意味をわかりかねて、つい尋ねてしまう。
「そのまんまの意味だよ。他の誰かが父さんを殺したなら、それはきっと恨むだろうけど、もしそれがローだったら…オレはお前を恨まない。」
いや、恨めない…の間違いか。
こんな言葉じゃ伝わるはずもなく、案の定ローは「意味がわからない」といった表情をしている。
「父さんは、会ったことはないけど、オレにとって特別な存在だ。」
それは間違いない。
ずっと尊敬していたのも本当。
「でも、ローだって…。ローだって特別だ。」
「……特別?」
そう、特別。
ベポよりも、シャチやペンギン、ジャンバールよりも。
ローの手は、誰より大きいと感じた。
ローの背中は、誰より温かいと感じた。
その理由はよくわからないけど、たぶん、たぶん…。
「これを聞いたら、もしかしたらローはオレをバカだと思うかもしれないけど…。」
いつからだろう。
尊敬していた父親よりも、ローを尊敬するようになったのは。
いつからだろう。
憧れていた父親よりも、ローに憧れるようになったのは。
いつからだろう。
ローが、こんなに大きな存在となってしまったのは。
「ローはオレにとって“家族”だから…。」
家族。
なんとなく、選ぶ言葉が違った気がするけど、他に表現できなくて、そう言うしかない。
「だから、お前を恨めない。」
それは暗に、父親よりもローの存在が大きいと言ったようなものだった。
なんて薄情なヤツ。
コハクは自分を自分で笑った。