第9章 裏切り
メルディアの手を借りて船の外へ出ると、今日は昨日とは違い、厚い雲に覆われた生憎の曇天だった。
「なんだか雨でも降りそうね、早く行きましょ。」
こっちよ、とメルディアが先を急ぐ。
数歩進んでからモモは足を止め、船を振り返った。
(ロー、ごめんなさい。すぐ戻るから…。)
少し絵画を見て来るだけ。
ほんの少しの間だから。
ビュウッと強い風が吹き、キャラメル色の髪が大きく舞い上がった。
「--モモ? 行きましょう。」
メルディアの呼びかけに、モモは小走りに距離を詰め、彼女の後へと続いた。
「キャプテン、どうかしてるよ。モモを部屋に閉じ込めるなんてさ。モモがなにしたっていうんだ。」
モモはベポにとって、大切な子だ。
そんなモモに、ローが暴挙をふるうのを見過ごせるはずはない。
「…うるせェな、黙ってろ。」
「黙らないよ、理由を教えて!」
毛を逆立てて憤慨するベポを、シャチとペンギンは黙って見ていた。
2人はベポよりも、ローの気持ちがわかるのだ。
だから、彼がモモに行う仕打ちの裏に隠した想いが理解できる。
でも、理解できるけど、賛成はしない。
それゆえに、黙って見ていることしかできない。
(船長、そんなことしなくても、モモは…。)
一度は彼女に惚れた身だ。
モモの想いがどこにあるかくらい、目を瞑っていてもわかる。
それなのに、どうして本人たちばかりが、こんなに鈍感なのか。
「しつけェな、この船では俺がルールだ。文句は言わせねェ。」
ローは聞く耳持たない、とばかりに部屋へ戻っていった。
「待ってよ、キャプテン!」
その後を怒った様子でベポが追う。
「オイオイ…ベポ、いい加減にしとけよ。」
このままでは船内で乱闘沙汰になりかねない。
そんなことになれば、ますますモモが傷つくだけだ。
それは止めなければ、とシャチとペンギンも2人の後を追いかけた。