第9章 裏切り
「モモはどう思う?」
「当然だと思うわ。」
そう、とメルディアはソファーに座り、脚を組んだ。
「でも、今のあなたも、そう変わらない状況だと思うけど。」
「…え?」
「好きでもない男に、無理やり犯される。同じでしょう?」
「それ、は…。」
そう、だけど。
そうなんだけど…。
(でも、わたし…。)
「ねえ、モモ。ローに抱かれた今、あなたはなにを思うの?」
怒り
憎しみ
悲しみ
どの感情も自分の中にはない。
驚き
戸惑い
それから…--。
「私はもう、答えが出てると思うけどね。」
メルディアは、まるで姉のような慈愛に満ちた目でモモを諭した。
「…わたし、は。」
それっきり、モモは口を閉ざし俯いてしまう。
「まあ、いいわ。…それより、絵画を見に来る約束でしょう? 行きましょうよ。」
「…ごめんなさい、メル。わたし、ここから出られないの。」
どちらにせよ、ローを怒らせてしまったのは事実。
言いつけを破るわけにいかない。
「ローがそこまで…?」
よほどモモのことが心配なのだろう。
彼がこんなに執着心の強い男だったとは、意外だ。
「…でも、私もあなたに、どうしても見て欲しいわ。」
そう、どうしても。
「……。」
モモだって、本当は見に行きたい。
「実は、明日にでも島を出るの。」
「えッ!?」
そんな、急に?
メルディアとはまだ話したいことがたくさんあるのに。
「だからあなたに、私の夢、見て欲しい。」
スッとモモの手を握る。
「だって私達、友達でしょう?」
「え……。」
とも、だち…。
それはモモにとって、初めての言葉。
(わたしとメルが、友達…。)
宝物を手にしたときのように、心が躍った。
「この広い海の上、次はいつ会えるかわからないじゃない? ねぇ、お願い。ローには一緒に謝るから。」
自分だってメルの夢を見てみたい。
そしてメルからはこんなにも、お願いされている。
自分を友達と呼んでくれる。
断る理由がどこにあるだろう。
手を引かれ、モモは立ち上がった。