第43章 覚悟
コハクは聡い子だ。
だから、ローの質問の意味を正しく理解したことだろう。
『オレは父さんのことを尊敬してるんだ。』
かつてコハクが言った言葉だ。
いくら大人びているとはいえ、コハクはまだ子供。
目の前に父親を害した可能性のある人間がいたら、問いつめ、責めるしかない。
勘違いではなく、コハクは自分を慕ってくれていたはずだ。
けれど、その関係性が崩れ去ろうとも、ローはコハクに聞かなければならなかったのだ。
その先の、新たな関係を築くために…。
しばらく目を瞑っていたコハクが、ゆっくり目を開けた。
そして一言。
「どうもしないよ、別に。」
コハクの口からは先ほどと同じ答えが返ってきて、一瞬理解ができなくなる。
「…お前、俺の質問の意味がわかってんのか?」
ついそんなことを聞いてしまったが、コハクは「わかってるさ」と頷く。
「父さんがローのせいで死んだら…だろ。ちゃんとわかってる。」
「だったらなぜ、そんな答えが出る。」
コハクはローを問いつめなければ責めもしない。
父親を尊敬していると言っておいて、おかしすぎるだろう。
矛盾しすぎた答えに、逆にローが問いつめた。
「……。」
コハクの答えに納得がいかないローは、不機嫌そうにこちらを睨んでいる。
(正直に答えただけなんだけどな…。)
どっちが責められているんだかわからない状況に、コハクは内心笑った。
ローはきっと、コハクが怒り狂い、責め立てるとでも思っていたのだろう。
でも残念ながら、コハクの胸に怒りは湧いてこない。
ひとつ言うならば、父親のことは今も変わらず尊敬している。
でも、それでも、怒りが湧いてこないのは。
その理由は…。
まるで尋問するかのようにこちらを見下ろすローの手。
もしかしたら、父親を殺したかもしれないその手を、コハクは黙って見つめていた。