第9章 裏切り
(……嫌われた。)
なんてはしたない女と思われたことか。
きっとモモに対してそんな気持ちは持ってなかっただろうに、ローは優しいから、拒めなかったに違いない。
自分がバカで、嫌になる。
鈍痛に眉を寄せながら、ベッドがら這い出た。
シーツに染みた赤い純血が、昨夜の出来事が夢でないことを教えてくれる。
モモはのろのろと衣服を身につける。
ついでに、薬棚から鎮痛剤を取り出して飲み込む。
再びベッドに横になり、しばらくすると、痛みはずいぶん和らいだ。
どれくらいそうしていただろう、ボーッと天井を眺めていると、不意に窓を叩く音が聞こえた。
「……?」
窓の外には、見慣れた女性の姿。
「メル…!」
急いで駆け寄り、窓を開けた。
彼女は窓から猫のように、スルリと船内に入る。
「絵を見に来るって言ったのに、なかなか来ないから迎えに来ちゃったわ。」
「う…、メル…ッ」
彼女の笑顔に、モモは思わず抱きついた。
「あら、熱烈な歓迎ね。…まあ、昨夜の状況はだいたい想像できるけど…、どうしたの?」
モモは自分の知りうる限り、昨夜の出来事をメルディアに話した。
もちろん、自分の推測も交えて。
一部始終のなりゆきを聞いたメルディアは、絶句した。
話の内容にではない。
モモの想像力について、だ。
(自分が誘ったと思うって…、どうやったらそう思うわけ!?)
結局、ローはローでモモに想いを伝えていないようだし、昨夜、メルディアが思い描いたあらすじ通りには、事が運ばなかったようだ。
まったく、恐れ入る。
ここまで来ても、モモは自分の気持ちに気がつかないのか。
「ねえ、モモ。私は見ての通り、色香を武器にこの海を生きてきたのよ。」
「……? うん。」
「だから当然、愛する人以外の男とも寝るし、無理やり犯されることもあるわ。」
「……。」
彼女の突然の告白に、どんな反応をしていいか迷う。
「無理やり犯されれば、いくら私でも、心を引き裂かれる思いをするし、相手の男を憎むわ。」
それはそうだろう。
好きな人以外に、そんなふうに触れられると思うと、モモだってゾッとする。