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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第43章 覚悟




「……ッ!」

所詮は酔っ払いの戯言。

そうわかっていながらも、動揺する心を止められない。

“好き”

それは、ローがモモから欲しかった唯一の言葉。

違う、落ち着け。
これは自分への言葉じゃない。

モモはただ、エースへの気持ちを口にしているだけだ。

「……んん。」

それなのに、どうしてだろう。
どうして、モモの腕を振り解けず、彼女の口からでる言葉に耳を澄ませてしまうのか。

「…好…き。」

聞いたことのないほどの甘えた声で擦り寄るモモは、いまだかつて見たことがない。

まるで、自分たちは想いが通じ合った恋人同士なのでは…と錯覚してしまいそうになる。

違う、わかってる。

彼女はただ、傍にいる自分を勘違いしているだけ。


「……ロー。」

「……!」

モモの桜色の唇が、エースではなく自分を呼んだ。

例え間違えているとしても、彼女がローを認識しているということだけで、心臓が笑ってしまうくらい跳ねた。

違う…。

ただ単に、ローを代わりにしているだけ。

悪魔のような女。

とろりと開かれた金緑の瞳。

その神秘的なエメラルドには、どうしようもなく狼狽えた自分が映っていた。

白い腕に力がこもり、ゆっくりと近づいてくる。

それはまるで、魔女の誘惑のようで…。


『もしかしてソレ…、セイレーンじゃないッスか?』

『セイレーンってのは、綺麗な歌声で男たちをメロメロにして、船を沈没させちゃうっていう海の妖精ッスよ。』


ふいに、いつだったかペンギンが言っていた話を思い出した。

美しい歌声の持ち主で男を魅了する、海の魔性。

まさに、彼女のことではないか。

そんな現実離れした考えをよぎらせながらも、ローはモモの瞳から、逃れることができなかった。


「好き…、ロー…。」

違う、俺じゃない。

悪魔の囁きを遠ざけようと、必死に否定する。

突き放すことができず、かといって抱きしめることもできない。

違う…。

中腰の状態で固まることしかできないローの唇に、魔女の吐息がかかった。

「ロー…。」

柔らかな感触が唇に当たった。


ちが…う…。


………。


なにが、違う?


湧き上がった問いかけが、ローの頭にスッと染み込んだ。



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