第43章 覚悟
ゆらりと心地よく揺られながら、モモは幸せなひと時を味わっていた。
規則正しく動く揺れは波によるものではなかったけど、なぜだか安心感に包まれていた。
揺れるたび、ふわりと香るのは、僅かに残る消毒液の匂い。
(ああ、この匂い…。)
モモが1番好きな匂い。
この匂いを嗅ぐだけで、モモはとてつもない幸福感を味わうことができる。
もっと味わいたくて、匂いのもとへと擦り寄った。
もっと近くにいきたい。
もっともっと…。
「ん…、ううー…。」
「オイ、暴れんな。」
急にもぞもぞと動き出したモモを窘め、ローは彼女の部屋へと向かう。
「ぅ…む…。」
しかし、いくら酔っ払いに言い聞かせたとて、言うことをきいてくれるはずもない。
モモは抱きかかえられているなんて思いもしないのか、落ちそうになるのも構わずローの首もとへと擦り寄る。
そのため、ローは幾度となくモモを抱え直さなくてはならなくなった。
「んん…。」
「オイ、いい加減にしろ。」
抱え直すたび、密着する部分が増えていって正直気が気ではない。
けれど、天使の寝顔をしたこの悪魔は、そんなローの気持ちなど嘲笑うかのように、腕を首に巻き付け抱きつく。
「…この酔っ払いが。」
普段はまったくこんなことをしないくせに、酒の力とは驚くべきものだ。
いつもこのくらい親密だといいのに。
無理なこととわかっていても、ついそんなふうに思ってしまうのは、やはり自分もただの男なのだろう。
気づきたくない己の一面を、またひとつ発見してしまいながら、ようやくたどり着いた部屋のドアを開けた。
「ホラ、着いたぞ。…もう寝ろ。」
今さら宴に戻る気にもならなかったので、このまま自分も部屋へと戻ってしまおうと考えつつ、モモをベッドに降ろした。
…が、しかし。
「オイ、離せ…。」
へばりついた彼女の腕は、ローの首でがっちりとホールドされており、まったく離れない。
無理に剥がそうとすると、謎の言葉を発しながら抵抗するので手に負えない。
「ハァ…。」
いっそ能力で枕と入れ替わってやろうかと考え始めた時、彼女が何事かを呟いた。
「……き。」
「あ? なんだって?」
「……好き。」