第43章 覚悟
「……オイ。」
意識を失い、糸が切れたように寄りかかるモモの身体を抱きとめるように支えた。
さっきまでの勢いはどこへやら。
腕の中からは安らかな寝息が聞こえてくる。
「チ…ッ、言いたいことだけ言いやがって。」
なんだか少し晴れやかな顔をした彼女が憎らしい。
けれどそうは言いながらも、ローは自分の心もまた、モヤが晴れているのを感じていた。
“優しい人”
そんなこと、他の誰からも言われたことがない。
実際、自分は優しくなんかないと思う。
くだらない情は己の目を曇らせるだけだし、時には冷酷な判断も必要だ。
でも、モモはローのそんな部分もちゃんとわかっている。
わかっていてもなお、ローを“優しい人”と言うのだ。
(そんなことを言うヤツは、お前くらいだ。)
だからこそ、自分にはモモが必要だと感じてしまう。
モモがいれば、誰にも負けないくらい、強くなれる気がするから。
再び眠りについたモモの身体を抱き上げる。
筋力のない身体はとても華奢で、今にも壊れてしまいそう。
『大丈夫。わたしが守るわ。』
彼女がなにを思ってそんなことを言ったのかはわからない。
まったく、冗談じゃない。
「…こっちのセリフだ、バカ野郎。」
守りたい。
火拳のエースの分まで、この俺が。
例えモモの中にエースがいたとしても構わない。
そんな彼女を丸ごと好きになってしまったから。
これからは、ずっと…。
「んー…、う…ん。」
酒のせいで意識が混濁しているのか、モモが呻き声を上げてローに擦り寄る。
その仕草を可愛らしいと思いながらも、これ以上彼女を夜風に晒すわけにはいかず、ローは船内へと入った。
守るわ。
これ以上、大切な人を誰ひとり失いたくない。
守るわ。
わたしが、絶対に。
二度と後悔なんてしないように。
あなたは、わたしが守る。
命に、かえても…。
それがわたしの覚悟。