第9章 裏切り
(…俺の顔も見たくねェってことか。)
モモは枕に顔を沈め、微動だにしない。
当然といえば、当然だ。
昨夜、自分は嫌がる彼女の体を無理やり押し開いたのだから。
嫌われてしまうのは、覚悟の上。
衣服をすべて身につけると、ローは彼女に、残酷な言葉を落とす。
「ログが溜まるまで、お前はこの部屋を出ることを禁じる。」
「…え?」
昨夜、喘ぎすぎたせいだろう、少し嗄れた声でモモが聞き返す。
「部屋を出るのも、街へ行くのも許さねェ。そう言った。」
「…どうして?」
外へ出せば、モモは二度と戻って来ない気がするから。
「命令だ。」
「だから、どうして? …ロー、昨日のことを怒っているの?」
それはこちらのセリフだ。
モモは昨夜の出来事に、怒り、傷ついたはず。
そんな彼女を外に出せば、前回のように、逃げ出すに決まっている。
もし次に、モモが逃げ出そうとしたら、自分はなにをするかわからない。
(頼むからこれ以上、俺にお前を傷つけさせんな…。)
心から守りたいと想う人を、ぐちゃぐちゃにしてしまいそうで怖い。
「………。」
結局、ローはモモになにも言えないまま、部屋を出て行った。
「待って、ロー…!」
ひとり残された部屋には、ガチャリ、というドアの鍵が閉まる音だけが、無情に響いた。
(ロー…。)
施錠されたドアを見つめながら、悲しみだけが溢れてきた。
(わたしが、いけなかった…。)
調子に乗りすぎてしまったのだ。
メルディアといるのが次第に楽しくなって、つい彼女の誘いに乗ってしまった。
昔のとはいえ、大事な女性とモモが親しくするのは不快だったろう。
場の雰囲気に流されて、あんな似合いもしない服を着てしまった。
あんな姿のモモに、恥ずかしい思いをさせてしまったのではないか。
あげくの果てに、お酒まで飲んでローに迷惑をかけた。
正直、どうやって船へ戻って来たか記憶がない。
それに、どうしてあんなことになったのかも…。
たぶんだけど…、
たぶん、モモが誘ったのだ。
(だって、わたし…。)
ここしばらく、まったくモモに触れてこないローに、寂しさを感じていたから。