第43章 覚悟
「もし俺があの時、火拳のエースにオペを施していたなら、アイツは死ななかったかもしれない。」
あの日の出来事を語ったローは、最後にそう呟いた。
「……。」
モモは無言でローの話を聞いていた。
(幻滅、しただろうな。)
自分の傍にいる男が、実はこんな男だったなんて、きっとショックを受けているに違いない。
言わなければよかった。
そんなことはわかっていた。
隠し続ければ、モモがこの事実を知ることはない。
けれど、それは無理だった。
彼女を見るたび、エースのことがチラつく。
このままずっと、こんな気持ちのままモモを想い続けることは堪えられない。
かといって、この想いを断ち切ることはなおさら無理だ。
自分でも制御できない恋情を、どうして諦めることなどできよう。
だから“全てを話す”という選択肢しか残されていなかったのだ。
「…ふ……。」
吐息のような声を微かに漏らしたモモに反応して視線を向けると、僅かに俯いた彼女の口元は、緩く笑みを作っていた。
その笑みの意味がわからず、固まるしかないローに、モモは顔を上げてみせた。
「…呆れてしまうわ。」
「……。」
やはり、そうか。
モモの言葉を幻滅の意味と受け取り、静かに目を瞑る。
彼女が自分を許せないと思うのならば、それは仕方のないこと。
「あなたって、呆れるほど優しい…。」
弾けるように目を開けた。
今、モモはなんと言った?
空耳かと己の耳を疑うローの目に飛び込んできたのは、少し眉尻を下げ、微笑むモモの姿。
その金緑色の瞳には、うっすらと涙が浮かぶ。
言葉の意味、涙の理由。
たくさん聞きたいことがあるのに、どういうわけか、ローは言葉を失い立ち尽くすことしかできない。
これが“目を奪われる”ということなのだと知ったのは、もう少し冷静になってからのこと。