第43章 覚悟
本当に、ただの興味本位だった。
たまたま近くを航海していて、エースの処刑を知っただけ。
確か、過去に一度、エースとは顔を合わせたことがあって、それも理由で「どんな結果になるか見届けてやろう…」なんてマリンフォードに近づいたのだ。
実際に海底から忍び寄ってみると、案外警備が緩くて拍子抜けした。
せっかくだから…と戦争真っ只中の基地へと潜入してみた。
ローがマリンフォード内にたどり着いた時、戦争はまさに佳境を迎えていた。
大将“赤犬”の赤く煮えたぎる拳がエースの胸を貫き、ルフィの叫びが耳に入る。
助からない。
周囲が救命を叫ぶ中、遠目からでもローにはわかった。
マグマの拳に貫かれた内臓は焼け焦げ、もはや使い物にならない。
助かるとすれば、代わりの内臓を移植すること。
けれど、それをすれば、代わりに誰かが命を落とすことになるだろう。
おそらくこの場には、エースの代わりに命を差し出す人間が何人もいる。
しかし移植をすれば、反対にエースの恨みはこちらに向く。
そこまでしてエースを助ける義理も、戦争の中心に飛び込むリスクも負うつもりはなかった。
「うわぁあぁぁァ…ッ!!!」
受け止めきれない現実を前に、ルフィは気を失った。
身体も心もボロボロになったルフィも、このままいけば命を落とす。
この場で彼を救えるのもまた、ローだけだと思った。
ルフィとは、シャボンディ諸島でたまたま利害が一致し、共闘しただけの間柄。
目立つようなことをして、助けることはない。
けれどなぜだろう。
ここで彼を死なせてはいけないと感じるのは。
平気な顔をして天竜人を殴りつけるあの男は、ここで死ぬべきではないと感じるのは。
助けてみるか。
この感情に“気まぐれ”と名前をつけて、ローは仲間に指示を出す。
麦わら屋を助ける…と。
こうしてローは瀕死のルフィと深手を負った元七武海のジンベイを連れ、マリンフォードを離れた。
命の灯火を失ったエースだけを残して…。
彼女の大切な人を残して。