第43章 覚悟
酒のせいで意識を失ったモモを抱きかかえ、ローは自船へと向かった。
みんなモモの歌を素晴らしいと褒め、また酒の弱さに笑った。
すぐに目を覚ますかもしれないから、デッキに寝かせておけば…などと意見も出たが、考えた結果、無防備なモモの寝顔を大勢の前に晒すのが癪で、こうして部屋に連れ帰ることにした。
腕の中ではスヤスヤと寝息をたてるモモ。
先ほどの彼女の歌には、いったいどのような意味があったのか。
ただ酒に酔った勢いで唄っただけで、意味なんてないのかもしれない。
でも、なんとなく、意味があるような気がするのだ。
“冒険の始まりは、僕の中のここじゃないどこかへと行ってみたい気持ち。”
まるでそれは、モモの中にあるみたいだ。
ここじゃないどこかへと行きたいという気持ちが。
モモは無理やりローが連れ出しただけだというのに。
それなのに、都合よく考えてしまう自分がいる。
もしかしたらモモはずっと、冒険を求めていたのではないかと。
もしかしたらモモは、自分の手を引いてくれる誰かを…ローを待っていたのではないかと。
そんなはずはないのに。
彼女が待っていたのは、エースだ。
ありもしない考えを自嘲気味に笑った時、モモがモゾリと身じろいだ。
「…うーん。」
酒の摂取量が少なかったせいか、一度落ちたらなかなか目覚めないはずのモモが瞼を開けた。
「…ここ、どこ?」
先ほどとは変わり、静けさに包まれた辺りを訝しみ、モモは緩慢に視線を巡らせた。
「俺たちの船だ。」
「ああ、船かぁ。」
舌が回らない様子からして、未だ酔いは覚めていないようだ。
「みんなはー?」
「まだ騒いでる。」
遠くの方で楽しげな音楽と笑い声が聞こえてくる。
「んー、おりる。」
自分の身体が抱えられていることに気がついたモモは、しきりに下りたがった。
「止めとけ、お前はもう部屋に戻れ。」
「おーりーる!」
「ハァ…。」
戻ってもどうせ寝落ちするだけだと諭しても言うことを聞かず、しまいには手足をバタつかせるので仕方なく彼女の言うとおりにした。