第43章 覚悟
逞しい腕に抱かれながら、思っていた。
モモの冒険は、いつだってこの腕から始まった。
それならば、彼にこそ、この気持ちを伝えたい。
『わたしにできることで戦うんだ。それでもダメならば…。』
自分が今、どのような体勢になっているかなど気にもせず、モモはローに抱かれたまま、顔を上げて唄う。
『魔法を使おう!』
どこからか小さな光が灯りだした。
「あら、海蛍…?」
暖かい海域に生息するといわれる海蛍。
光の正体である海蛍が無数の群れとなって、どこからともなく現れた。
「珍しいわね、近くに夏島もないのに。」
誘われるかのように船を漂いはじめた海蛍が、歌に惹かれて宙を舞う。
『強さの始まりは、君の中の“誰かのためになりたい気持ち”だから。』
伝わるかな。
伝わればいい。
あなたがいなくちゃ、こんな気持ちにもなれなかったこと。
『どんなに強敵が現れようと、その気持ちこそが君の持つ最強の魔法だよ。』
あなたがいたから、わたしの冒険が始まったこと。
だから、これからも…。
『長い冒険になりそうだ、わたしは向かっていく。』
ふわり、ふわりと海蛍が舞う。
モモの代わりに踊っているようだ。
『この海の果てへと……。』
ずっと、あなたと一緒に。
最後の歌詞を唄い終えた瞬間、海蛍が一斉に空へと舞い上がる。
まるで満天の星のような光は、とてもとても幻想的だった。
その光を目の端に捉えながら、モモはローだけを見つめていた。
伝わってほしい。
どんな形であれ、ずっとあなたと一緒にいたいこと。
ローの瞳が、微かに揺れるのを見た。
けれど、この気持ちが伝わったかどうかはわからない。
そのまま意識を手放してしまったから。