第43章 覚悟
『“進む・戻る・戦う”ことを、何度も繰り返していくうち、たどり着いた未知なる島。好奇心に負けそうになる。』
酔っているのか踊っているのか怪しい足取りで唄うモモに、1番慌てているのはコハクである。
(マズイ、マズイ…! こんなとこで唄っちゃダメだ。)
ここにいる誰もが、モモをセイレーンだと知らない。
それなのに、こんなパフォーマンスのように唄ってはマズすぎるだろう。
しかも、モモの状態からして歌にどんな効力が現れるかわからない。
ここでモモを止められるのは、自分しかいない。
『弱くて守られて、何度も後悔。』
『なにかできないか? と握りしめた宝の地図を見ると、こんなことが書いてあるんだ…。』
「ダメだよ、母さん!」
唄い続けるモモの裾を掴み、歌を止めさせようとすると、モモはコハクに顔を向け、抱きしめていたチョッパーから手を離した。
「わわ…!」
下ろされたチョッパーは尻餅をついたが、今のモモにはコハクしか見えていないようで、小さなその肩に両手を置いてニコリと微笑む。
『強さの始まりは、君の中の“誰かのためになりたい気持ち”だから、どんなに強敵が現れようと、その気持ちこそが君の持つ最強の魔法だよ。』
「……!」
止めなきゃいけない。
それなのに、自分に向けて歌われた瞬間、その気持ちが驚くほど消え失せてしまう。
それどころか、この気持ちはなんだろう。
嬉しいような、楽しいような。
こんな気持ちになるのは、セイレーンの力のせいか。
それとも、コハクの中に眠る冒険への気持ちだろうか。
強さの始まりは、誰かのためになりたい気持ち。
(そうかもしれない…。)
そう思うと同時に、いつの間にかコハクはモモの裾を離してしまっていた。