第9章 裏切り
幼い頃のモモは、人付き合いという、子供ながらに学ぶべき社会ルールを怠った。
おままごとやお人形遊びより、ひとりでこっそり歌を唄うことの方が好きだったから。
ひとり、仲間の輪から外れるモモを、他の子たちは恰好のイジメ対象にした。
イジメと言っても、影でコソコソなにか言われたり、たまに小石を投げられたり、そんな程度。
けれどそれは、幼いモモに友達作りという、人生において重要なことを放棄させる理由には十分だった。
だから、モモには友達がいない--。
「……ぅ。」
全身のひどい倦怠感に、身体がズシリと重い。
それになにやら下腹部がジンジン痛む。
「……モモ。」
心地良い声で名を呼ばれ、前髪を撫でられた。
それに反応して、ふと目を開ける。
「ロー…。」
背に回された腕から、密着した身体から、彼の体温が伝わってくる。
ここしばらく共に眠ることがなかったから、この感覚は久しぶりだ。
(あれ、わたし、どうしてローと…。)
ズキリ
夢うつつだった意識は、下腹部の鈍痛によって取り戻された。
(そうだ…、わたし…ローに--!)
途端に昨夜の記憶が、鮮明に思い出される。
夢だと思いたい。
けれど、自分が一糸まとわぬ姿であることがなによりの証拠。
「……ゃ…ッ」
驚きと羞恥に、ローの腕から逃げ出し、シーツを身体にまとわりつかせながらクルリと丸まる。
急に動き出せば、鈍く走る痛みと、股の間になにか挟まったような異物感に襲われる。
「……っう…。」
うつ伏せに縮こまるモモの姿を、ローはどこか諦めたように眺めていた。
モモが目覚めれば、ほんの僅かに感じていた幸せは、もう終わり…。
ローはベッドから起き上がると、なにも言わず衣服を身につけ始める。
その様子を横目で見て、モモは胸をギュウッと締めつけられるような痛みを感じた。
それは、まるで身体だけの関係の男女が見せる、劇中のワンシーンのよう。
(…ロー、わたしたち、そんな関係になってしまったの?)
そんな彼の姿を見たくなくて、枕に顔を押し付けた。