第43章 覚悟
コハクがローの様子をおかしいと感じたのは、今朝になってからのことだ。
どこがおかしいのか? と聞かれれば、うまく答えることはできない。
ただ、なんとなく…としか言いようがなかった。
でも、実際にこうやって問い詰めてみれば、自分の直感が正しかったのだということがよくわかる。
ローの弟子になって、それなりにいい関係を築いてきたつもりだ。
表情の少ない師匠の、僅かな驚きもわかるくらいには。
「お前の気のせいだろ。別に変わったことなんかねェよ。」
そんなふうに言われても、それがローの誤魔化しであることくらい、すぐに見破れる。
「嘘つくなよ。どうせ、母さんとなにかあったんだろ。」
ローの様子がおかしくなるなんて、モモが原因としか思えない。
この船でローの気持ちもモモの気持ちも知っているのはコハクだけだと思う。
だからこそ、自分は2人の架け橋とならなければいけないのだ。
「……。」
コハクは知らない。
今、ローを悩ませているのが、モモだけでなく、コハクも含まれているということを。
エースの死に、自分が関わっていることを知ったら、コハクはどんな顔をするだろうか。
彼の失望した顔を見たくないのなら、ここでコハクを突き放すべきだ。
自分の弱みや葛藤は、誰かに見せるものではない。
だというのに、なぜだろう。
今、打ち明けてしまいたくなる。
相手はただのガキなのに。
「……コハク。」
「なんだよ。」
打ち明けてくれるとは思っていなかったのか、コハクの瞳が嬉しげに輝く。
「もし、お前の……」
お前の父親、と言いそうになって言葉を飲み込む。
さすがにそんな具体的なことは言えない。
「お前の…誰か大切なヤツが死んで、その死にお前の近しいヤツが関わっていたとしたら、お前はどうする?」
「…は?」
あまりに予想外な質問だったのだろう。
コハクは目をまん丸に広げた。
まあ、そうだろう。
こんな抽象的すぎる突拍子もない質問を真面目に考えろという方がどうかしている。