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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第43章 覚悟




どうしてだろう。

今、モモと顔を合わせるのは気まずいと感じているのに、自然と足が彼女のもとへ向いてしまうのは。

モモが向かった先は、きっと温室だろうと予想して、かつてはほとんど未使用だった設備のドアを開けた。

ローが考えた通り、モモは温室の中で一心不乱に苗の植え替えを行っていた。

この温室は、ローたちが船を作り替える際、ロー自身が発注したものだ。
温度湿度の僅かな調整もきくように、職人たちにこと細かに口出しをした。

だというのに、いざ船を渡された時、なぜこんな温室を作ったのだろうと疑問に感じてしまった。

薬草の栽培ができれば、それはもちろん有意義な設備なのだが、ローは他の研究で忙しいし、希少な薬草を育てられる技術もない。

それでも当初は比較的育てやすい薬草を栽培していたが、結局長続きせずに温室は宝の持ち腐れとなった。

しかし、モモが来てからというもの、温室は以前と見違えるくらい、本来の機能を取り戻した。

まるで、彼女のために作ったかのように…。


「どうかした?」

そう尋ねられて、ローは我に返った。

「大丈夫? ちょっと疲れているんじゃない…?」

ローの様子がいつもと違っていることに気がついたのだろう。
モモが心配そうに近寄ってきた。

なんでもない…と答えても、モモは納得した様子もなく、体調を心配してか、ローの額に手を伸ばしてくる。

彼女に触れられれば、この嫌な気持ちも、晴らすことができるだろうか。


『わたし、エースのこと、愛していたわ。』


ふいに昨夜の言葉が蘇る。

パシッ。

瞬間、今にも触れそうなモモの手を振り払ってしまっていた。

驚きに見開かれる金緑色の瞳。

それを見て、ローは「なぜ?」と自分自身に驚いた。


なぜ、今、モモの手を振り払ったのか。

その理由は…。

触れられた指先から、伝わりそうだったから。

ローがエースを助けられなかった事実が。

もし、知られてしまったら、モモはどう思うのだろうか。

軽蔑…されるだろうか。


知らなかった。
彼女に嫌われることが、こんなにも怖いとは。

モモに触れられるのが、怖い。



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