第43章 覚悟
隣の部屋から物音が聞こえ、ローは視線を流す。
きっとモモが起き出したのだ。
ルフィとモモの話から、コハクの父親が誰かを知ってしまったローは、昨晩遅くに自室へと戻った。
当然、眠れるわけなどなかった。
ローの手にはチョッパーの部屋からくすねた本が開かれているが、そのページはちっとも進んでいない。
考えても仕方のないこと…とはわかっているが、どうしても頭から離すことができない。
コハクの父親が、火拳のエースだという事実を。
「ハァ……。」
ため息をひとつ吐いて、手にした本をパタリと閉じた。
悩んだって仕方のないことだ。
どうしたって過去に戻ることはできないし、例え戻れたとしても、あの時のエースを救うことは難しい。
それに、もしエースの焼かれた内臓をすべて移植して救えたのだとしたら、モモはローのもとにいないのではないか。
自分よりも早くモモを迎えにいったエースが、きっと連れ出していたに違いない。
しかし、それがモモにとって、最高の幸せだとしたら…?
「……クソッ」
考えても仕方のないこと。
何度そう思っても、結局は同じことを考えてしまう。
ふと、自分の弟子である幼い少年の顔が脳裏をよぎった。
エースの息子であるコハクは、この事実を知ったらどう思うだろうか。
生意気なガキだけど、彼が自分を慕っていることはなんとなくわかる。
でも、もしコハクが自分の父親がエースと知り、ローがエースを救えなかったと知ったら?
コハクはローに失望するだろうか。
弟子なんか面倒くさいだけだし、あんなガキ、どうでもいい。
だというのに、頭の中でコハクが失望の目を向けることを思い描いた瞬間、心がズシリと重くなった。
ああ、クソ…。
この感情は、いったいなんだ。
正体のわからぬ感情に苛立ちを抑えきれず、乱暴に本を放り投げたローは、隣でモモが部屋を出る音だけに耳を傾けていた。