第42章 追憶のひと
年下の男性にしがみついて泣きじゃくるなんて恥ずかしいことだと思う。
だけど、ルフィの優しい手のひらが時折背中を撫でるものだから、モモはそれに甘えて泣くのを止められなかった。
「……ぐす、ルフィ。わ、わたし…、あなたに会うことができて良かった。」
ローの手を取ってしまったことに、少しだけ罪悪感を覚えていた。
でも、それもいつの間にか晴れている。
ルフィがエースのことを教えてくれたおかげだ。
今では海に出て、ルフィに会えて、本当に良かったと思う。
「おれも、お前に伝えられて良かった。」
エースの言葉を伝えられていない人は、まだまだたくさんいる。
でもその中で、エースの死という後悔の鎖で捕らわれていた彼女に伝えることができたのは、ルフィにとっても意味のあることだった。
きっと、これから彼女は、前を向いていけるだろう。
エースもそれを望んでいるはずだ。
だからルフィは、自分のシャツがモモの涙に濡れるのも構わず、彼女の好きにさせた。
ぽっかりと浮かんだ満月と、たくさんの星空のどこかで、兄が見ていることを願って…。
カタン…。
サウザントサニー号のデッキの陰で、ローはゆっくりと壁に寄りかかった。
(そうだったのか。)
盗み聞きをするつもりはなかった。
しかし、モモとルフィがあまりにも深刻そうに話しているので、立ち去ることができなかったのだ。
(そう…だったのか。)
『わたし、エースのこと、愛していたわ』
涙に震える彼女の声が、耳に残って離れない。
(コハクの、父親は……。)
『オレの父さんは、この海で1番強いんだって、母さんが言ってた』
そうかもしれない。
彼女の心の中で、その男が最強ならば、彼はもう負けることはない。
なぜならば、彼はすでにこの世の人間ではないから。
白ひげ海賊団にいたという彼女。
しかし、チョッパーがみた海賊船は小さなものだったという。
その船が、2番隊の分船だとしたら?
2番隊隊長は、誰だ。
すべてが1本の線で繋がった気がした。
(コハクの父親は、火拳のエースだ。)