第42章 追憶のひと
いつか、モモと旅を続けるうちに、彼女の想い人と出会ったならば、どうするかと考えていた。
海は広いといえども、強者であれば、たったひとつの頂点を目指していずれかち合うはずだ。
モモの想い人とも、いつか必ず…。
負けるつもりはなかった。
例え今は自分の一方通行な想いでも、その頃までに振り向かせてみせる。
諦めるつもりなどない。
現れる男が、どんなヤツでも。
想定外だった。
彼女の想う人が、火拳のエースだったとは。
すでにこの海にいないとは。
エースは、きっとモモの心で永遠に生きているのだろう。
最愛の人として。
誰にも負けるつもりなんてなかった。
けれど、彼女の心に住まう男に、果たしてローは勝つことができるだろうか。
死別の辛さと、あとに残る想いはロー自身がよくわかっている。
炎に包まれる白い町で失った家族は、今でも愛しいと感じている。
命を遂してローを救ってくれたコラソンは、格上の相手に十数年に渡り復讐するくらい、心に住まう特別な人だ。
死した人というのは、それくらい強い想いを心に残す。
だからこそ彼女は、あんなにも頑なに島を離れなかったのではないだろうか。
モモが知りたがっていたマリンフォードでの戦争。
あの場に、少しの間だけだがローもいた。
参戦するつもりはなかったし、ただちょっとだけ興味が湧いただけ。
乱闘のどさくさに紛れて侵入したものだから、居合わせたのは争いの終焉間際。
それでも、あの瞬間だけはローも見ていた。
『愛してくれて、…ありがとう!!!』
力なく大地に沈むエース。
精神が崩れ、意識を失うルフィ。
あの時だ。
ルフィを救おうなんて気まぐれを起こしたのは。
けれどローは、エースを助けようとは思わなかった。
そもそも救命に間に合う状況ではなかったのだ。
だが、死に際のあの言葉は、いったい誰に向けたものだったのか。
もしかしたら…。
(俺に、モモを想う資格があるのか…?)
振り向かせてみせる。
諦めるつもりなどない。
けれど…。
彼女の1番大切なものを救えなかった自分に、その資格が。
「……クソッ」
壁をぶん殴りたい衝動を抑えて、盛大な苛つきを吐き出す。
誰も知らない想いの行き違いは、空に浮かぶ満月だけが見ていた。