第42章 追憶のひと
赤犬のマグマによって内臓を焼かれ、息も絶え絶えだったエースは、ルフィの腕の中で最期の言葉を残した。
『オヤジ、みんな、そしてルフィ。』
『今日までこんなどうしようもねぇ俺を、鬼の血を引くこの俺を……』
『愛してくれて、……ありがとう!!!』
そうしてエースは、笑って息絶えた。
「……ッ!」
瞬間、モモの心に空いていた穴が、ギュッと塞がったような気がした。
見つけた。
ずっとずっと、わからなかったもの。
自分にとって、エースという人は、どんな存在だったのか。
仲間じゃなくて、家族でもない。
ましてや恋人なんかでもない。
そんな彼の存在がずっとわからなかった。
見つけた。
こんなところで、こんな簡単に。
『愛してくれて、ありがとう』
そう、愛していた。
仲間じゃなくて、家族でもない。
ましてや恋人なんかでもないけど。
でも、愛していた。
これは恋じゃない。
けれど、あなたはわたしの、愛する人だった。
そんな大切で当たり前なことを、今になって気づいた。
「……ッ」
気づけば、モモの瞳からは大粒の涙が溢れ出ていた。
止めたくても止められず、口からは嗚咽が漏れた。
「わ、わたし…ッ、エースのこと…愛していたわッ。」
喉が震えて途切れ途切れだったけど、それでも言葉に発した。
誰かに…ルフィに、聞いて欲しかったからなのかもしれない。
「ああ。そうだと思ったから、おれも言ったんだ。」
エースが言う“みんな”には、きっとモモが含まれていたと思ったのだ。
「エースは笑ってたよ。だから、お前が気に病むことは、なんもねぇ。」
涙の止まらぬ彼女の髪を、ルフィは乱暴にぐしゃりと撫でた。
「……ッ」
堪らずモモは、ルフィに抱きついた。
そうして目を瞑ると、見える気がするのだ。
エースの安らかな笑顔が。
大事なことを見つけ出せた。
探し続けても、わからなかったもの。
こんな海の上で。
彼の弟の言葉で。
『愛してくれて、ありがとう』
涙と一緒に、靄が晴れていく。