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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第42章 追憶のひと




(……わかっていたわ。)

本当は、ずっとずっとわかっていた。

モモの後悔は、なんの意味もないことを。


『モモ、俺と一緒に行こうぜ。』


あの日、あの瞬間、モモがエースの手を取っていたら、いったいどうなっていただろうか。

エースを助けられたのか。
彼は今でも生きていたのか。

(……いいえ。)

きっと、なにも変わらない。

エースは危険を伴う黒ひげとの決戦に、モモを連れていくことはしなかっただろう。

信頼する仲間にモモを預け、ひとり戦地へ赴いたに違いない。

そして彼の仲間は、エースから託されたモモのことを、絶対にマリンフォードへ連れていってはくれないはずだ。

モモはセイレーンだから、みすみす政府の目の前になど連れていくことはない。

そうして、モモは安全な場所で知ることになるのだ。

エースの救出が失敗に終わるのを。


わかっていたけど、後悔せずにはいられなかった。

それほど突然で、なんの覚悟もできなかったから。

信じられなかった。
もう、この海に彼がいないなんて。

もしあの時、彼の手を取っていたら…なんて仮説を幾度となく考えてしまうくらいに。

ルフィも、きっとそうなのだろう。
ずっと、自分の弱さを悔いているのだ。


だけどもし、この場にエースがいたならば?

彼はなんと言うだろう。


「…きっと、怒るわね。『俺が死んだのは、誰のせいでもなく、俺自身の人生だ』って。」

彼は選べた。
白ひげへの侮辱を無視して、逃げぬく道も。
ルフィを庇わず、生き残る道も。

けれど、白ひげへの侮辱に怒り、弟を庇った。

すべてはエースの選んだ道。

モモやルフィ、他人がとやかく言っていいものではない。

それが、彼の人生だったのだ。


「ああ。おれもエースはそう言うと思う。」

ルフィは、モモよりもずっと早く、この答えを導き出していたようだ。

だからルフィは、2年前よりもさらなる高みへ登ることができたのだろう。



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