第42章 追憶のひと
夕食後のクルーの行動といえば、人それぞれだった。
ペンギンのようにいつまでも楽しく酒を飲んでいる者もいれば、ジャンバールのように自船へ戻る者もいる。
モモはといえば、ナミのミカンの樹を見て、生薬として皮や幹を少しわけてもらったり、ロビンの愛読歴史書を貸してもらったりしていた。
そうこうしている間に夜はどんどん更け、就寝時間になってしまった。
「こっちに泊まっていきなさいよ。女部屋はまだまだ余裕があるんだから。」
「ううん、いいわ。船に残してきた仲間も心配だから。」
女同士のお喋りはとても楽しかったけど、モモには仕事がある。
今宵は満月だから、船でお留守番をしているヒスイから蜜を採らねばならない。
「そう…、じゃあまた明日ね。」
クルーにはそれぞれ役割があることを知っている2人は、無理に引き止めようとはせず、そのまま手を振ってくれた。
(そういえば、ローはどこへ行ったのかしら。)
夕食後、ふらりとどこかへ行ってしまったローとは、あれから話をしていない。
セイレーンの話をしたかったけど、これだけ大きい船で、これだけの人数がいたら、なかなか2人きりになるのは難しい。
(まあ、いいわ。忙しそうだし、ここの船のみんなと別れてからでも遅くないわよね。)
別に急いで話さなければならないものではない。
もし、なぜ今まで黙っていたのかと詰られたのなら、その時は誠心誠意謝ろう。
別に急ぐことじゃない。
この時は、本当にそう思っていた。
自船に戻ろうとデッキへ出ると、少し湿り気を帯びた夜風がモモの頬を撫でた。
たなびく髪をおさえながら、ふと船首を見上げると、月明かりに照らされた青年がひとり、佇んでいた。
(……エース?)