第42章 追憶のひと
こんなにも大人数での食事は、初めてと言ってもよかった。
今までハートの海賊団の食卓は賑やかだと思っていたが、モモの概念は簡単にも覆された。
麦わらの一味でいう食事とは、ある意味“戦争”だった。
肉の奪い合いから始まり、腕が伸びる伸びる…。
自分の皿に取りよけておいた料理とて例外ではなく、遠慮なく手が伸ばされる。
「くォら、このクソ野郎! レディの皿に手を伸ばすんじゃねぇよ! おかわりならあるって言ってんだろ!」
口の悪いコックに窘められ、渋々手を引っ込めたルフィはすかさず「おかわり!」と皿を突き出す。
「ごめんねぇ、ウチの連中、行儀悪いでしょ?」
隣の椅子に座るナミが苦笑しながら謝った。
「ううん、楽しいわ。こんなにたくさんの人と食事をするのは初めてだから。」
ひとりの食事がどれだけ侘しいものかは、嫌ってほど知っている。
でも、人数が多ければ多いほど、こんなに楽しいものだとは知らなかった。
「モモの野菜、すっごく新鮮で美味しいわ。育てるのが上手なのね。」
「ありがとう。子供の頃から土いじりをしてるから、ちょっと慣れてるだけなのよ。」
それに歌を使っているから、こんなにうまく育つだけだ。
「私も船でミカンを育ててるのよ。良かったら、あとで見てもらえない?」
「ミカン? 船で育てるなんて素敵ね。もちろん、あとで見させて。」
しらほしは別として、近頃 歳の近い女性と全然交流をもっていなかったので、こうしてお喋りをしながら食事をすることに、なんだかとてもドキドキした。
コハクとはというと、チョッパーと熱心に話し込んでいる。
チョッパーが医者と知ったので、彼からなにかを学ぼうとしているのだろう。
いくらローが師匠だとはいえ、あまり口で教えようとはしないローとチョッパーでは、系統が大きく異なる。
加えてコハクとチョッパーは目線が近い。
もしかしたら、いい友達になれるのではないだろうか。
新しい出会いに感謝しながらも、モモは肉にかぶりつくルフィを横目で眺めた。
『火拳のエースが、処刑されたわ。』
彼は当然知っているのだろう。
エースの、最後を。