第42章 追憶のひと
「お前、ホラーの類が苦手だったのか。」
開口一番飛び出た言葉は、モモとしては知られたくない事実で、ピクリと顔を引きつらせる。
そんな恥ずかしいこと、どうにかして誤魔化したかったが、もう今さら隠しようもない。
「…まあ、少しだけね。」
それでも虚勢を張ったのは、少しでも情けなく思われたくなかったから。
失神したあとでは、なんの効力もないけど。
「お前にそんな可愛らしい弱点があるとは驚きだな。あんなもん、なにが怖い?」
虫も雷も顔色ひとつ変えないくせに、白骨死体ごときで気を失うとは、ものすごく意外だった。
そして本音を言ってしまえば、そんな事実を知らなかったことが、なんだか腹立たしい。
モモとは、まだ出会ってひと月余り。
知らないことがあって当然だ。
それなのに、彼女のことは全て知っていてもおかしくないような、知らないことがある方がおかしいような、そんな気分になる。
独占欲が強いとは、最近になって自覚していたが、近頃はますますそれが悪化していると感じるのは、たぶん気のせいではないだろう。
例えばこの腕に彼女を閉じ込めることができたなら、胸にくすぶるもどかしさを消し去ることができるのだろうか。
「妙な隠しごとをしやがって。…お前、もう隠していることはねェだろうな。」
「え……。」
オバケ嫌いを隠していたつもりはないけれど、今 ローから問われたことに心当たりが多すぎて、固まることしかできない。
6年前のこと、コハクの父親のこと、そしてセイレーンのこと。
けれど、モモから打ち明けられるのは、この中でひとつだけしかない。
「…世の中、秘密を持たない人の方が少ないと思うわ。」
すべてを打ち明けられなくて、自分を見せることができなくて、モモはそう呟いた。
モモの言葉を“拒否”と受け取ったのか、ローは不愉快そうに顔をしかめた。
そうじゃない。
そうじゃないのだけど。
言いたいけど言えない。
そんな気持ちは、この世界で誰も理解できないだろう。
でも、唯一、言えることがあるのなら…。
今…なの?
今、言うべきだろうか。
自分に宿る力のことを。