第42章 追憶のひと
「あ、あの……!」
「ん、なんだ?」
ルフィは人柄的に話しやすいタイプのはずなのに、話しかけるのにずいぶんと緊張した。
「その…。このこと、ローたちには言わないでくれる?」
「このことって、なんだよ。」
「えっと…。」
曖昧に濁したかったが、はっきり告げなければルフィに通じないらしい。
「今の…歌のことよ。」
ここにいたのなら、モモが歌を唄うのを彼は聞いていたはずだ。
「ああ、今のすげー力のことか。トラ男たちに言っちゃいけないって、なんでだ? お前、トラ男の仲間なんだろ?」
「それは……。」
話の流れからして、トラ男とはローのことだろう。
独特の呼び名に、2人の仲の良さを感じる。
確かに、ルフィからしてみれば、仲間であるはずのモモが彼に力を隠すことはおかしいと思うはずだ。
モモとて、ずっと秘密にしておくつもりはない。
セイレーンの力やホワイトリストのことは、いつかは話さなければと思っている。
けれど、なかなかタイミングが見つけられずに、今日まできてしまっているのだ。
大事なことだ。
告白するのはこんな成り行きではない方がいいだろう。
「わたし、まだローたちにこのことを話していないの。…ちゃんと自分から話したいのよ。」
いつか、みんながモモを受け入れてくれるように、きっと今でもありのままの自分を受け入れてくれる。
それがわかっているから、昔ほど告白は怖くない。
近いうちに、モモはみんなに打ち明けるだろう。
けれどそれは、自分の口からでないと嫌だ。
昔のように、誰かの口から語られたくなかった。
それをわかって欲しくて、ルフィに懇願してみたが、彼はモモの真剣さにそぐわない態度であっさりと頷いてみせた。
「ふーん、そうなのか。わかった。」
「え…! あ、ありがとう。」
もう少し色々と尋ねられるかと思っていたから、なんだか拍子抜けしてしまう。
「それよりよ、早くその野菜持ってこうぜ。サンジがメシにしてくれんだろ?」
言うやいなや、ルフィは大量の野菜を軽々と抱え、足取り早くサウザントサニー号に戻っていく。
「え、あ…、ちょっと待って…!」
まだ大事なことをなにも言えてないのに、さっさと行ってしまったルフィを、モモは慌てて追いかけた。