第42章 追憶のひと
モモの歌の力を得た野菜たちは、太陽の光を浴びてめきめきと成長した。
1曲唄い終わる頃になると、人の頭ほどはありそうな野菜がゴロゴロと実り、デッキの上はなんとも不思議な光景となる。
「…ふぅ、これだけ実れば十分かしら。」
久しぶりに歌の力を使ったから、妙に緊張した。
モモは深呼吸をひとつすると、実ったばかりの野菜を収穫するため屈み込む。
「すっげー! お前、おんもしれー力持ってんなァ。」
「……ッ!」
モモとコハク以外いるはずのない第三者の声に驚き、慌てて顔を上げる。
すると、船縁の柵の上に、夕陽を背にして佇む人影がひとつ。
逆光のせいで、顔がよく見えない。
でも、モモにはその人物が誰なのか、ひと目でわかった。
逆光に照らされたシルエットが、麦わら帽子を被る男のものだったから。
あなたは…。
麦わらのルフィ。
これが、モモとルフィが初めて顔を合わせた瞬間だった。
『お前、俺の弟に似てるんだよなァ…』
いったいどこが似ているんだろう。
夕陽が沈んでいくことにより、逆光が弱まってモモの目に彼の顔が映し出される。
興味津々にこちらを眺めるその表情は、かつて手配書で見たとおりの笑顔を浮かべていた。
「なァ、それ、食えんのか?」
突然のことに固まるモモに構わず、ルフィはたった今実ったばかりの野菜を指差して尋ねた。
「え…ッ、あ…、もちろん…食べられるわ。」
とっさに返事をしたのはいいけれど、ぐるぐると回る思考は現状についていけない。
(えっと…、そうよ、彼はエースの弟。)
モモがずっと会ってみたいと思っていた人だ。
そう、彼に会ったら…--。
「へー! お前、野菜をでっかくさせられんのか! すっげぇ力だな!」
「!!」
ルフィの言葉に、モモの頭は一気に現実へと引き戻った。
ぼやぼやしている場合ではなかった。
彼がここにいるということは、見られてしまったのだ。
セイレーンの力を。