第42章 追憶のひと
ハートの海賊団の船は、サウザントサニー号の後方に繋いである。
今は誰も乗っていない自船に、モモとコハクは乗り込んだ。
船内の一室には、先ほどサンジに話したように、薬草を栽培するための温室がある。
せっかくの設備なのに、これまではあまり活用されていなかった温室だが、モモが船に乗ってからは、その役目を大いに果たしている。
温室に足を踏み入れると、海の上では嗅ぎ慣れない土の匂いが鼻に広がる。
青々しく育つ草花の中には、たわわに実った野菜も複数あった。
しかし、モモはその野菜たちをもぐことはせず、まだ若い苗を数本選び抜く。
「ナスとトマトにピーマン…。あ、コハク、そっちのルッコラとブロッコリーもお願い。」
モモの意図を察してか、コハクは怪訝な顔もせず、両手いっぱいの苗を抱え上げる。
「これくらいで十分ね。外に行きましょう。」
「うん。」
そのまま2人は、結局野菜を手にすることなく温室を出て行ってしまう。
デッキに上がると、落ちかけた夕陽が眩くこちらを照らしていた。
(日が沈む前で良かった。)
抱え上げた苗を、デッキに並べる。
モモには考えがあった。
かの一味は、たいへんな大食いだという。
だとすれば、例え温室の野菜を分け与えても、1・2回分で食べ尽くされてしまうだろう。
だから、育てることにした。
あれから6年。
時の経過と共に、モモは経験を得て歌の力を強めていたのだ。
今では、小さな苗を立派な実がみのるまで成長させることも可能だ。
ただ、歌の影響か、実が大きくなりすぎたりしてしまうので、普段は自然のままに育てるのがモモの方針である。
けれど今回は、食べることが目的だし、多少不具合があっても構わないだろう。
幸い、この船には誰もいないことだし。
苗の成長に必要不可欠な太陽が落ちてしまう前に、モモは大きく息を吸った。