第42章 追憶のひと
「野菜だったら、わたしが持ってきましょうか?」
役に立てることがわかって、意気揚々としている気持ちを隠しながら申し出た。
「ん…。そりゃァ助かるけど、確かそっちの船もしばらく補給をしてないんじゃなかったか?」
すでに話をしていたのか、サンジはこちらの状況を知っているようだ。
彼の言うとおり、モモたちも魚人島を出て以来どこにも立ち寄っていないので、物質補給はしていない。
けれど、モモが見つけた“役に立てること”とは、なにも自分の船から食材を持ってくることではなかった。
「わたし、船で薬草と一緒に野菜も育てているのよ。たくさんあるから持ってくるわ。」
ハートの海賊団の船には、薬草栽培のための温室がある。
きっと、過去にローがモモのために作ってくれたものだろう。
室温・湿度を管理できる温室は、モモにとって天国のような環境だ。
「そうなのか! 助かるな。じゃあ、お願いしちまってもいいかい?」
「もちろん! すぐに取ってくるわ。」
くるりと踵を返そうとするモモを、サンジは慌てて呼び止める。
「あ、モモちゃん、俺も行くよ。女の子ひとりじゃたいへんだろ?」
「え……。」
とても優しい申し出ではあるのだが、モモは口ごもってしまう。
できれば…、いや絶対についてきて欲しくない。
「あの…、大丈夫よ。コハクと一緒に行くから。」
チラリと視線を投げかければ、幼いモモの理解者は、それだけで言わんとすることをわかってくれる。
「ああ、荷物運びくらいオレだけで十分だよ。サンジはおとなしくメシの準備をしてろよな。」
とても目上の人に対するものと思えない物言いに、サンジは「生意気だぞクソガキ」と小突く。
「ご、ごめんなさい。でも、本当に2人で大丈夫だから、サンジくんはここで待っていて?」
息子の躾の悪さを詫びながら、モモはやんわりとサンジの申し出を断る。
「そうかい…? んー、じゃあ、無理そうならすぐに呼んでくれよ。」
引き下がってくれたことに安堵しながら、モモは「ええ」と笑ってキッチンを出た。
「しかしあのクソガキ…、どう見ても小せぇローにしか見えねぇなァ。」
あの生意気そうな顔と言葉遣いが、同盟中の船長とばかり重なった。