第42章 追憶のひと
「レディ、よければお茶をお淹れしましょうか?」
丁寧に一礼され、モモは慌てて手を振った。
キザったらしい仕草も、妙に様になっているのが不思議だ。
「いえいえ、どうぞお気遣いなく…!」
さっきまでぐっすり寝ていたのに、お茶まで淹れてもらって寛いでは、居心地が悪すぎる。
「その…、忙しいのに邪魔をしちゃってごめんなさい。」
チラリとキッチンの様子を窺えば、コンロでは大きな鍋が慌ただしく蒸気を吹いている。
当たり前だ、もうすぐ夕食時なのだから。
「いやいや、こんなの片手でも余裕だから気にすんなって。」
さすがは一流のコック。
こんなに大人数の夕食を用意するのにも、まったく動じた様子がない。
「なにかお手伝いしましょうか?」
モモに手伝えることは そうない。
力仕事は邪魔になるだけだし、調剤を覗けばせいぜい掃除洗濯くらいなものだ。
自分にできることがあれば…と思って申し出たが、サンジは「とんでもない」と首を横に振る。
「レディにそんなことされられねぇよ。モモちゃんはゆっくりしてな。」
「でも……。」
他人の船に乗せてもらっているのに、なにも手伝えないのは心苦しい。
「もうすぐメシもできるから。モモちゃんのために、腕によりをかけて……って、そうだ、野菜がなぁ…。」
途中でなにかに気づいたサンジは、困ったように呟いた。
「野菜…? なにかあったの?」
きょとんとして尋ねれば、サンジは言いづらそうに口を開く。
「いや…ほら、ウチの船長が急にローたちを迎えに行くって言い出したもんだからよ、前の街での買い出しがちょっと足りなくて。」
当たり前のことだが、海の上では買い出しなんてできない。
島に上陸をした時に、たっぷりと買い出しをするのが普通だ。
けれど今回、急な行き先変更で船旅が延びたため、予定が大幅に狂った。
「食材が無いわけじゃねぇんだ。ただ、野菜がもう尽きちまって。」
小麦粉やチーズなど、日持ちするものはこんな時のために大量に常備している。
ちなみに、この船の主は肉が主食と言っても過言ではないらしく、肉だけは事欠かさないらしい。
ただ、野菜は芋類を除き、ほとんどが手元にない状況だった。
けれどそれを聞いた瞬間、モモは喜んだ。
(…役に立てること、見つけたわ!)