第42章 追憶のひと
「…あの、ローたち…仲間たちには昔のことを秘密にしててくれないかしら。」
「昔のこと?」
なんのことかと視線で尋ねれば、モモは言いにくそうに口ごもった。
「その…、昔、わたしが海賊をしていた時のことよ。」
「異なことを言う。そなたはずっと、仲間たちと共にいたのではないのか。」
なぜならば、彼女の言う“昔”とは、あの男…妖刀鬼哭の持ち主こそが、海賊の頭だったのだから。
「話せば長くなるけど…、みんなはわたしのことを覚えていないの。わたしは一度、海賊を辞めたのよ。」
痛みを堪えるように言うモモに、サクヤは「それはどういうことなのか」と追求することをしなかった。
人生という長い物語の中で、いくつもの想いや事情があるということは、誰よりもサクヤ自身がわかっているから。
彼女の仲間たちが覚えていないはずがないが、モモが言うのなら、そうなのだろう。
「そうか、ならば私もなにも言うまい。」
サクヤの言葉に、モモは心底安心した表情を見せた。
(難儀なものだの。)
モモが胸に当てた手の上でエメラルドの指輪が、キラリと悲しげに輝くのを見て、サクヤは静かにため息をつくことしかできなかった。
サクヤと別れたあと、モモはデッキでコハクを見つけた。
「コハク。」
「あ、母さん! 起きたのか。」
原因はわかっていても、心配はしていたらしく、パタパタとこちらに駆けてくる。
「うん、ちょっと驚いただけよ。」
「母さんは本当にオバケが苦手だなー。」
「……。」
隠しておきたかった弱点が露見してしまい、モモは目を伏せた。
この分じゃ、仲間たちにはとうに知られてしまっているのだろう。
「…みんなは?」
きっとバカにされたりはしないだろうけど、仲間たちの反応が気になり、周囲を窺う。
「ローはここの船長とどっか行ったよ。あとのヤツはそのへんにいると思うけど。」
ルフィとは話をしてみたいと思っていたが、なかなかその機会に恵まれない。
「あ、母さん、この船の中見たか? なんかすげーんだぜ。」
コハクはすでに探検済みらしく、「ほら、こっち!」と手招いて船案内を買って出た。